令和4年度の厚生労働省の助成金から、最低賃金、正社員転換、職業訓練・人材育成、高齢者雇用、生産性向上投資といった関心の高いテーマ別に9つの助成金をピックアップして、それぞれ助成内容や助成金額などをまとめました。
補助金・助成金の別に捉われることなく、積極的な情報取集で活用できるものを見出して、柔軟に使い分けていくことは、企業の外部環境・内部環境それぞれに対応するための施策を、企業の手持資金をできるだけ減らすことなく行い、企業経営を改善することに少なからず役立つものと考えています。
9つの助成金の中に、活用できそうなものや興味を引くものがありましたら、早めに厚生労働省の助成金ページやパンフレットに当たってみることをお勧めします。
大学院からサブスクリプション型サービスまでを広くカバーする訓練の助成金
今年(令和4年)4月に新設されたこのコースは、昨年12月から「人への投資」に関するアイデアを募集した結果を踏まえて制度設計されたもので、次の4つの教育訓練と長期教育訓練休暇等制度の導入・実施への助成をその内容としています。
・高度デジタル人材訓練/成長分野等人材訓練
・情報技術分野認定実習併用職業訓練
・定額制訓練
・自発的職業能力開発訓練
ITSS(ITスキル標準)レベル4または3相当の訓練などを対象に、中小企業では、対象経費の75%、訓練期間中の賃金助成が1時間あたり960円という高率・高額の助成が行われます。
対象となる事業主としては、まず「情報通信業」があります。
情報通信業以外については、産業競争力競争法に基づく事業適応計画の認定、DX認定(IPA)などの要件のうち1つ以上を満たすことが必要です。
国内外の大学院での正規課程、科目等履修制度、履修証明プログラムによるもののみが対象ですので、活用されるケースは自ずから限られてくると考えられます。
IT分野未経験者に対するOFF-JTとOJTの組み合わせ型の訓練で、その訓練計画に公的な認定(厚生労働大臣認定)を受けたものです。
対象となる事業主は、情報通信業、それ以外ではiT関連業務を主に担う組織などを持つものに限られますが、既存の特定訓練コースより高率の経費助成を受けることができ、昨今のIT人材の不足もあり、企業の訓練需要は高いと考えられます。
ここでのIT分野未経験者は、文字通りの未経験者に限らず、情報処理・通信技術者としての業務経験が概ね1年未満の者まで含まれます。
(ただし、新規学卒予定者は除きます。)
近年多くみられるようになった定額受け放題研修サービス(サブスクリプション)のことです。そのうち、業務上義務付けられ、労働時間に実施される訓練が助成対象となります。
助成対象経費は、基本料金、訓練に直接要する経費(初期設定費用、アカウント料などが対象となり得る)であり、助成率は中小企業で45%です。
従業員が労働時間外に自発的に行う職務関連訓練です。
助成対象となるのは、「自発的職業能力開発経費負担制度」を就業規則等に定めた上で、実際に事業主がその経費の1/2以上を負担した場合であり、助成金額は対象経費の30%です。
この自発的な訓練はOFF-JTですので、受講に際して必要となる入学料・受講料・教科書代等(あらかじめ受講案内等で定めているもの)が事業主負担の対象です。
前記の自発的職業能力開発訓練を行う者を対象に、連続30日以上の連続休暇を含む「長期訓練休暇制度」もしくは「教育訓練短時間勤務等制度」(所定労働時間の短縮及び所定外労働免除制度)を導入して実際に適用した事業主に、制度導入経費(20万円)を支給します。
また、有給の長期訓練休暇取得に対しては、1日あたり6,000円の賃金助成も行われます。
人への投資促進コースの訓練のうち情報技術分野認定実習併用職業訓練以外は、有期契約労働者やパートタイム労働者も対象者です。
ちなみに、人への投資促進コースの修了後に正社員化した場合は、キャリアアップ助成金(正社員化コース)の加算対象になります。
このコースも含めて人材開発支援助成金の対象となる訓練に、この4月から「eラーニング」「通信制」での訓練が対象に加わえられたことで、受講についての時間的な制約が少なくなりより取り組みやすくなっています。
従業員100人以下で、その事業所での最低賃金(事業場内最低賃金)と都道府県の最低賃金の差が30円以内の事業所において、事業所内最低賃金を30円以上引き上げたることが主な助成要件の一つです。
生産性向上のための機器・設備の購入費
外部専門家による研修やコンサルティング費用など
POSレジシステム(小売業等)
スチームコンベクションオーブン(飲食サービス業)
フォークリフト(製造業)
調節機能付の電動式ベット(医療・福祉)
業務用乾燥機(生活関連サービス業)
治療器具洗浄機(医療・福祉)など
生産性向上に直接つながらないもの、
例えば、老朽設備の同等性能のものへの更新、単なる経費削減を目的とした経費(LED電球への交換など)など
対象経費の3/4で、最低賃金の引上げ額(30~90円の4段階)と賃金を引上げた人数(1人~7人以上の4段階)の組み合わせで決まる上限額まで支給されます。
引上げ前の事業所内最低賃金が900円未満の場合には助成率が4/5にかさ上げされますが、最低賃金889円の北海道では、該当する事業所はそれほど多くはないと考えられます。
有期雇用からの正社員登用を支援する定番助成金
次のいずれかの正社員転換を行い、転換後6か月分の支払給与額が転換前6か月から3%以上増額させていることが主な助成要件の一つです。
また、事前に転換実施のための計画(キャリアアップ計画)で労働局の認定を受けておくこと、正社員については、就業規則等で賃金の額または計算方法を明確にして運用していることが求められます。
ここでの正社員(正規雇用労働者)は、フルタイム勤務・転勤ありだけではなく、短時間勤務の正社員や勤務地限定の正社員、職務限定の正社員(いわゆる「多様な正社員」)も含んでいます。
ですから、現在の有期契約の社員のうち、週4日以下の勤務、1日6時間勤務や残業免除、家庭の事情で勤務する店舗・工場限定といった方を、限定正社員制度を新設して正社員登用するといった方法での助成金活用も可能です。
転換した方1人当たりの額で決まっています。
中小企業では、有期雇用から正社員への転換が57万円、無期雇用から正社員の転換が28.5万円です。
この他に、転換の対象者が派遣労働者、母子家庭の母等または父子家庭の父、厚労省の別の助成金を利用して特定の訓練を受けた方である場合などに助成金額の加算措置があります。
今年(令和4年)10月から、対象となる正社員の要件が追加され、
① 賞与または退職金制度の対象者であること
② 昇給が適用されること
の2つが新たに求められます。
加えて、転換前の労働者(有期もしくは無期雇用の社員)についても、賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」が適用されていたことが求められますので、転換日の設定にあたっては注意が必要です。
有期雇用からの正社員登用での障害者の職場定着を支援する助成金
次のいずれかの正社員転換などを行い、転換後6か月分の支払給与額が転換前6か月のそれから減額されていないことが主な助成要件の一つです。
また、事前に転換実施のための計画(キャリアアップ計画)で労働局の認定を受けておくこと、正社員については、就業規則等で賃金の額または計算方法を明確にして運用していることが求められます。
正社員化コースと同じく、ここでの正社員(正規雇用労働者)は、フルタイム勤務・転勤ありだけではなく、短時間勤務の正社員や勤務地限定の正社員、職務限定の正社員(いわゆる「多様な正社員」)も含んでいます。
転換した方1人当たりの額で決まっていますが、次の区分ごとに金額は異なります。
例えば、【区分①】で中小企業の場合は、
・有期雇用から正社員への転換:120万円
・無期雇用から正社員、有期雇用から無期雇用への転換:60万円
ちなみに、正社員化コースで設定されているような加算措置はありません。
正社員化コースと異なり、第1期(転換後6か月)、第2期(転換後1年)の2回に分けて受給します。各期の金額は、それぞれ助成金額の1/2です。
(助成金額が120万円の場合は、第1期 60万円、第2期 60万円)
今年(令和4年)10月から、対象となる正社員の要件が追加され、
① 賞与または退職金制度の対象者であること
② 昇給が適用されること
の2つが新たに求められます。
加えて、転換前の労働者(有期もしくは無期雇用の社員)についても、賃金の額または計算方法が「正社員と異なる雇用区分の就業規則等」が適用されていたことが求められますので、転換日の設定にあたっては注意が必要です。
65歳から先への定年延長、継続雇用などの取り組みを支援する助成金
65歳より先の高齢者雇用のため、次のような取り組みを行った事業主を支援する助成金です。
・65歳以上への定年引上げ
・定年の廃止
・希望者全員を対象とする66歳以上の継続雇用制度導入
・他社による継続雇用制度の導入
なお、高年齢者就業確保措置のうち創業支援等措置にあたるもの(継続的に業務委託契約を締結する制度など)は、この助成金の対象外です。
このコースでは、専門家による就業規則作成・相談等を実施しての制度導入、高齢者雇用管理に関する措置等の実施後に、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構に支給申請を行う流れになります。
なお、専門家による就業規則作成・相談等に関しては、その専門家との業務契約・費用支払を証明する書類の提出が必要です。
支給申請前日の時点で、1年以上継続雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いることも要件です。
(この被保険者は、定年前の正社員や無期契約の社員、定年後継続雇用されている者に限られる。)
〇 高齢者(55歳以上)を対象とした短日数勤務・短時間勤務等
(勤務時間等の弾力化)
〇 高齢者対象の人間ドック検診制度、生活習慣病予防検診制度等
(健康管理、安全衛生の配慮)
〇 高齢者を対象とした技能講習・資格取得講座の受講等
(職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等)
など、7つの措置のうちいずれか一つ以上を就業規則等に定めて制度化した上で実施すればよいとされています。
導入した制度と60歳以上の雇用保険被保険者の人数の組み合わせで決まります。
例えば、60歳定年、継続雇用の上限年齢が65歳の事業所で、継続雇用の上限年齢を70歳まで引き上げる場合は、60歳以上の雇用保険被保険者が1~3人で30万円、4~6人で50万円です。
中高齢の有期雇用社員の無期雇用転換を支援する助成金
・50歳以上で定年年齢前(64歳未満)
・雇用期間6か月以上5年以下
のいずれにも該当する有期契約社員の無期雇用への転換を支援する助成金です。
① 転換後6か月間給与を支払うこと
(転換後の給与の増額までは求められていません。)
② 通算雇用期間5年以上の有期雇用の社員を無期転換する制度(無期転換ルール)
を就業規則等に定めていること
③ 65歳までの高年齢者雇用確保措置(再雇用、定年延長)を導入済みであること
まず高齢者雇用管理に関する措置等を実施したうえで、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構で計画書の認定を受けてから、無期転換の実施という流れになります。
〇 高齢者(55歳以上)を対象とした短日数勤務・短時間勤務等
(勤務時間等の弾力化)
〇 高齢者対象の人間ドック検診制度、生活習慣病予防検診制度等
(健康管理、安全衛生の配慮)
〇 高齢者を対象とした技能講習・資格取得講座の受講等
(職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等)
など、7つの措置のうちいずれか一つ以上を就業規則等に定めて制度化した上で実施すればよいとされています。
中小企業で転換した方1人当たり48万円
この助成金は、50代の契約社員が在籍し、会社としては正社員化して長期雇用したいが、その社員自身が正社員という働き方を望まないといったケースでの定着促進策としても活用できるものです。
高齢者が働きやすい労働環境への改善の取り組みを支援する補助金
高齢者の働きやすい労働環境への改善のために実施される以下の対策に必要となる費用を支援する中小企業事業者限定の補助金です。
・介護でのリフト、スライディングシート等の導⼊や移乗⽀援機器等の活⽤
・ 通路の段差の解消(スロープの設置等)や階段への⼿すりの設置
・ 業務⽤の⾞両への⾃動ブレーキ⼜は踏み間違い防⽌装置の導⼊
・ 熱中症リスクの⾼い作業がある事業場での涼しい休憩場所の整備
・ 不⾃然な作業姿勢を改善するための作業台等の設置
・ 重量物搬送機器・リフトの導⼊など
・ 健康診断や⻭科健診、体⼒チェック等に基づいた運動指導、栄養指導、
保健指導等の実施など
・⾼齢者の特性を踏まえた安全衛⽣教育
以上の対策は、現に高齢者(60歳以上)が従事している作業で実施するものに限られます。また、高齢者(60歳以上)を現に雇用していない中小企業者は、補助対象外です。
まず交付申請をエイジフレンドリー補助金事務センター((一社)日本労働安全衛生コンサルタント会)に提出して、交付決定通知が発行されてからの事業実施という流れになります。
上記の対策に要した経費の1/2で、補助上限額は100万円
この補助金での取り組みを検討するにあたっては、「エイジフレンドリーガイドライン」が参考になります。
ガイドラインの概要はこちらから
時間外・休日労働の縮減や年休取得促進、生産性向上投資を支援する助成金
時間外・休日労働、年次有給休暇などに関する次の成果目標のうち1つ以上を選択し達成した事業主が助成対象となります。
36協定での時間外労働の上限を月60時間超で設定している事業場で、上限時間数を縮減すること
(月60時間超➤60時間以下、月80時間超➤60時間以下 or 60時間超80時間以下が対象)
年次有給休暇の計画的付与の規定の導入
(年休のうち5日超の部分について、全社一斉休業、計画表による個人別の付与などの方法で計画的に休暇を取得させる制度)
時間単位の年次有給休暇制度の導入
(年休のうち5日を超えない部分について、時間単位の年休取得を認める制度)
有給の特別休暇の導入
(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇などのうち1つ以上)
また、休日の取得促進の助成金であることから、支給申請の時点で就業規則等に「年5日の年次有給休暇取得義務」を定めていることが求められます。
研修費用、外部専門家によるコンサルティング費用
労務管理用ソフトウェアや機器の導入費用
労働能率の増進に資する設備・ 機器などの導入・更新費用など
小売業でのPOS導入による在庫管理の負担軽減
飲食店での自動食器洗い乾燥機導入による作業負担軽減
設計業での3DCAD導入による作図時間の縮減など
助成対象経費の3/4が基本で、4つの成果目標の達成による上限額と、賃金引上げでの上限額加算の合計額を限度に支給されます。
なお、30人以下の事業所について、労働能率の増進に資する設備・機器等の導入経費が税込30万円を超える場合は、該当する導入経費部分の助成率が4/5にかさ上げされます。
成果目標①が変更前・変更後の36協定の月上限時間数の組み合わせにより50~150万円、成果目標②が50万円、成果目標③、④がそれぞれ25万円ですから、成果目標達成による上限額は最大250万円となります。
賃金引上げを目標として追加設定し達成した場合に加算されるもので、引上げ率(3%0r5%)と引上げ人数の組合わせで決まります。
例えば、引上げ人数5人の場合、引上げ率3%で30万円、5%で48万円です。
男性社員の育児休業取得促進の取り組みを支援する助成金
今年(令和4年)に育児・介護休業法の改正があることから、昨年に比べて助成要件や助成内容が大きく変更されています。
助成要件については、次の取り組みを求めています。
① 雇用環境整備の措置を複数実施すること
(法律では4つのうち1つ以上の実施を求めている)
② 労使で合意された育児休業取得者の業務を代替する労働者の業務見直しに係る
規定等を策定し、当該規定に基づき業務体制の整備をしていること
(今年度から追加)
昨年までの助成要件にあった「男性労働者が育児休業を取得しやすい職場風土作りのための取組を行うこと」は削除され、それを①が受け継いだ形となっています。
また、今年の新しい助成内容では。個別支援加算、育児目的休暇の導入・利用への助成を廃止するとともに、次のとおり変更が行われています。
① 育児休業取得に対する助成は20万円として、1事業所1回限りに変更
② 代替要員加算を新設して、育児休業取得者の業務を代替する労働者の新規雇用
(派遣を含む)に対する加算を実施(基本20万円、3人以上の場合は45万円)
③ 育児休業取得以降の男性社員の育児休業取得率の上昇(30%)に対する助成
(第2種)の新設
助成額は、育児休業取得率が30%以上上昇したのが、第1種の支給を受けてから
・1年以内 60 万円
・2年以内 40 万円
・3年以内 20 万円
なお、「第2種」(③)に対して、育休取得時の助成である①、②は「第1種」に区分されています。
(参考)雇用環境整備の措置
・雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施
・育児休業に関する相談体制の整備
・雇用する労働者の育児休業の取得に関する事例の収集及び当該事例の提供
・雇用する労働者に対する育児休業に関する制度及び育児休業の取得の促進に
関する方針の周知
【この投稿の執筆者】
札幌・新道東社労士オフィス代表
特定社会保険労務士 塚田 秀和