この助成金は、50歳以上で定年年齢までの有期雇用労働者について、いわゆる「無期転換ルール」が適用される継続雇用5年超になる前に無期雇用労働者に転換させる制度などを整備した事業主を支援するものです。
この助成金の手続き・実施の流れは右図のとおりです。
まず最初に高齢者雇用管理に関する措置などを実施し、有期雇用から無期雇用への転換制度を整備したうえで、無期雇用転換計画を(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構に提出して、計画の認定を受けます。
計画認定後に、その事業場で直接雇用している有期雇用労働者を無期雇用に転換したうえで、転換後6か月の賃金を支払います。
賃金支払い後に、転換計画を認定した機構に助成金支給申請書を提出し、審査の結果、問題がなければ支給決定され、助成金が支給されます。
ここでの「無期転換制度」
有期契約労働者としての通算契約期間(※)が6か月以上5年以下で、50歳以上定年年齢未満の者を無期雇用に転換する制度で、労働協約または就業規則等に実施時期が明示されているもの。
(例えば、転換時期は、毎月〇日とする等)
(※)平成25年4月1日以降に締結された契約に係る期間の通算
対象となる事業主
以下の要件をすべて満たす雇用保険適用事業所の事業主が対象となります。
〇 計画書提出日の前日までに、
・労働協約又は就業規則等に、有期雇用労働者の無期転換制度について規定していること
・高年齢者雇用等推進者を選任していること
・高年齢者雇用管理に関する措置を1つ以上実施していること
〇 計画書提出日起算で6か月前の日から(計画認定日、転換日を挟んで)支給申請の日までの間、
・労働協約又は就業規則等に、高年齢者雇用安定法第8条又は第9条第1項に反した規定をしていないこと
〇 転換した無期雇用労働者を65歳以上まで雇用する見込みがある事業主であること
高年齢者雇用安定法第8条、第9条第1項
高年齢者雇用安定法第8条では、「60歳を下回る定年の定めの禁止」を規定し、同法第9条第1項では、65歳までの「高年齢者雇用確保措置」として、定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年の廃止を規定しています。
高年齢者雇用等推進者
65歳までの高年齢者雇用確保措置や、70歳までの高年齢者就業確保措置の推進を目的に、作業施設の改善その他諸条件の整備を図るための実務を担当する者のことで、必要な知識と経験を持つと認められる者を選任する。
(→推進者の選任は高年齢者雇用安定法での努力義務だが、助成金では支給要件)
高年齢者雇用管理に関する措置
55歳以上(高齢法上の高年齢者)を対象とする以下の7つの措置で、「単発による実施」又は「規則等による実施」のいずれかの方法で行われるもの。
(措置の事例は、別項「高年齢者雇用管理に関する措置の事例」を参照)
a) 職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等
b) 作業施設・方法の改善
c) 健康管理、安全衛生の配慮
d) 職域の拡大
e) 知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進
f) 賃金体系の見直し
g) 勤務時間制度の弾力化
・単発による実施 ( f、gを除く)
⇒ 就業規則等において制度化されていない1回限りの措置として実施したもの
・規則等による実施 ( bを除く)
⇒ 就業規則・社内規程等において制度化したもの
上記に該当する内容の措置であっても、55歳未満の者にも適用したり、定年年齢又は継続雇用年齢を超えた者のみに適用するなどした場合は、高齢者雇用管理に関する措置とは認められません。
対象となる労働者
以下の要件をすべて満たす労働者が対象となります。
〇 転換日における要件
・その事業主の継続雇用期間が6か月以上5年以内の有期雇用労働者
(→派遣労働者を除く。)
・50歳以上かつ定年年齢未満の者
(→64歳以上の者は除く。定年年齢は、その事業場で無期雇用されている者のもの)
・転換日の前日から過去3年以内にその事業主の事業所で無期雇用労働者として雇用されたことがない者
〇 転換日以後の要件
・転換日から支給申請日の前日までの間、雇用保険被保険者であること
〇 無期雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた有期契約労働者でないこと
無期雇用転換計画
無期雇用への転換を実施するにあたり、「無期雇用転換計画」の認定を受ける必要があります。
〇 計画の記載事項
・申請事業主、申請事業所について
・定年及び継続雇用に係る規定等について
・無期雇用転換計画期間(3年から5年の間で事業主が任意に設定)
・無期転換の規定と周知方法
・計画期間中の転換予定人数 など
〇 認定を行う機関
・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が認定を行う。
・提出先は、各都道府県支部の高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)
で郵送可
〇 計画の申請期間
計画の開始日起算で6か月前の日から2か月前の日まで
(→開始日が令和4年10月1日以降である計画は、「6か月前の日から3か月前の日」に変更)
(例)計画開始日:令和4年8月1日 ⇒ 計画申請期間:令和4年2月2日から同年6月2日まで
計画開始日:令和4年10月1日 ⇒ 計画申請期間:令和4年4月2日から同年7月2日まで
無期雇用転換計画の失効
各計画年度(※)に、事業主都合により転換を一度も実施しなかった場合には、その事業主の無期雇用転換計画書は失効します。
(※)無期雇用転換計画開始日を基準日とし、基準日から起算して 1 年を経過するまでの期間
を1年度とする。2 年目以降も同様。
例えば、計画開始日が令和4年7月1日の場合は、1年度は、令和4年7月1日から令
和5年6月30日まで。
無期雇用への転換の実施・助成金支給申請
〇 無期転換の実施
・無期雇用転換計画の開始日以降、労働協約または就業規則等に定めたとおりに有期雇用労働者の
無期雇用への転換を行います。そして、転換後6か月以上継続雇用して、6か月分の賃金をを転
換日以後12か月後の賃金支払日までに支給すること(※)が助成金の支給要件となります。
・この助成金では、キャリアアップ助成金(正社員化コース)での転換とは異なり、転換後の昇
給を要件として求めていません。
(※)転換後6か月分の賃金支払いでの月数のカウントに、勤務日数11日未満の月は含みません。
言い換えると、勤務日数が11日以上で賃金を支払った月が、転換後最初の賃金支払日から12か月後
となる賃金支払日までの間に6か月になれば、この助成金の支給要件を満たすということです。
〇 助成金支給要件
・以下の要件をすべて満たす必要があります。
なお、転換日の前日起算で6か月前の日から1年を経過する日までの間の当該事業所での離職の
状況により支給対象外となる場合があります。
イ 労働協約又は就業規則の規定に基づき、有期雇用労働者の無期雇用への転換を行い、
転換後6か月以上継続雇用して、6か月分の賃金を転換日以後12か月後の賃金支払日ま
でに支給していること
ロ 支給申請日において、無期制度を継続して運用していること
ハ 無期転換日から支給申請日の前日までの間、当該労働者が雇用保険被保険者であった
こと
当該事業所での離職の状況により支給対象外となる場合
無期転換日の前日起算で6か月前の日から1年を経過する日までの間の状況が、次のいずれかに該当する場合は、上記の支給要件をすべて満たしていても支給対象外となります。
・その期間内に、雇用保険被保険者(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を
除く。次項も同じ。)を解雇等事業主の都合により離職させた場合
・その期間内に、次のイ、ロいずれかの理由で受給資格が決定された者の数が、
無期転換日の事業所の雇用保険被保険者数の6%を超えている場合
(→ただし、特定受給資格者としての受給資格決定が3人以下の場合を除く。)
特定受給資格者となる離職理由のうち、
イ 解雇等(離職区分コード1A)
ロ 勧奨退職のほか、事業縮小や賃金大幅低下等による正当理由自己都合離職等
(同3A)
併給調整
・同一の事由でキャリアアップ助成金(正社員化コース、障害者正社員化コース)の
支給を受けた場合は、この助成金は支給されません。
・同一の行為を対象として2つ以上の助成金等が同時に申請された場合には、要件を
満たしていても、一方しか支給されないことがあります。
・他の国又は地方公共団体等の補助金等の支給を受けた場合には、それと同一の事由
でこの助成金の支給はありません。
〇 支給申請の方法
・所定様式の支給申請書と必要書類を支援機構の都道府県支部の高齢・障害者業務課(東京・大阪
は高齢・障害者窓口サービス課)に直接持参または郵送で提出します。
〇 支給申請の期限
・転換後6か月分の賃金を支給した日(6か月分の最後の支給日)の翌日起算で2か月以内
〇 助成金の支給額
・中小企業事業主
対象労働者1人あたり 48 万円 (生産性要件該当:60万円)
支給上限は、1支給申請年度(4/1~3/31)1事業所あたり 10人
・中小企業事業主以外
対象労働者1人あたり 38 万円 (生産性要件該当:48万円)
支給上限は、1支給申請年度(4/1~3/31)1事業所あたり 10人
高年齢者雇用管理に関する措置の事例
a) 職業能力の開発及び
向上のための教育訓
練の実施等
〇 高年齢者の技能を向上させるための職業能力の開発、教育訓練
・高年齢者を対象とした技能講習の受講
・資格取得講座の受講 など
〇 高年齢者の蓄積された知識や経験を若年者に伝えるための各種講習
・指導力向上セミナー
・伝承資料作成のための講習 など
b) 作業施設・方法の
改善
〇 高年齢者の身体的負担を軽減するための機械設備の導入
・シャベルによる手作業で行っていた残土運搬作業の際の高年齢者の負担を軽減する
ため、ショベルカーを導入した
・介護施設においてリフト付き浴槽等の特殊浴槽を設置した
・タクシーのデジタル無線配車システムを導入した
〇 作業環境の改善
・視力の低下した高年齢者のいる職場にLEDを導入し環境を整えた
c) 健康管理、安全衛生
の配慮
〇 高年齢者を対象とした法定外の健康管理、安全配慮
・高年齢者を対象に人間ドック受診のための制度を導入した
(→各種がん検診、歯周疾患検診、骨粗鬆症検診など)
・高年齢者を対象に生活習慣病予防検診(法定以上)の受診のための制度を導入した
・健康の保持増進に関わる、生活習慣、運動習慣についての知識と実践の機会を提供した
d) 職 域 の 拡 大
〇 高年齢者の能力、知識、経験等が活用できる職域の拡大
・運送業務において、長距離と短距離が混在する運行ルートであったが、高年齢者の身体
的負担を軽減するために職務を再設計し、短距離のみに限定するルートを設定した
・製造ラインにおいて、作業スピードの低下した高齢者のために新たに一人で完結する組
み立て業務を設け、自分のペースで無理なく働ける環境を整備した
e) 知識、経験等を活用
できる配置、処遇の
推進
〇 知識、経験等を活用できる配置
・高年齢者とのペア就労により高年齢者のもつ技能の伝承を図るとともに、高い技能をも
つ高年齢者は、指導役制度(専門職ポストとして資格要件を設定)により、専門職へ配
置転換を行うこととした
・運送業務の経験を活かし、配車業務へ配置転換した
〇 知識、経験等を活用できる処遇
・職制と責任を明確化し、技能評価結果を明示する
f) 賃金体系の見直し
〇 新たな賃金制度の創設
・生産ラインとは別の場所に技能伝承のみを行うスペースを設置、必要に応じて技術をも
つ高年齢者が若年従業員への技能指導を実施、その際の「指導手当」を新設する
g) 勤務時間制度の弾力
化
〇 勤務時間等の弾力化
高年齢者を対象に制度を導入する目的(体力低下、健康状態を考慮した本人の希望等)を
記載した上で、具体的な短時間勤務制度の内容、申請手続きについて規定していること
・高年齢者を対象とした
短時間勤務
短日数勤務(雇用保険の適用条件の範囲内での日数の調整)
勤務時間インターバル制度(9時間以上のインターバルの導入)
隔日勤務、短時間勤務
・高年齢者を夜勤勤務から除外し、日勤勤務のみとした