8月中旬までに、令和3年度の地域別最低賃金額改定額について、全都道府県で答申がなされ、28円以上の引き上げとなりました。昨年の地域別最低賃金は、全国平均1円増に止まりましたが、全国平均1,000円までの早期引上げのために、年3%程度の引上げ軌道に今年一気に戻したということです。
各企業での最低賃金引上げへの国の支援としては、これまでも厚生労働省の業務改善助成金がありましたが、7月末までに国の補助金、助成金について、次のような措置が発表されています。
業務改善助成金(厚生労働省)
8月1日から特例的な要件緩和や拡充の措置が行われます。これらの措置は、全事業者対象のものと特例事業者限定のものに分かれます。
【助成対象となる全事業主に適用】
●45円コースの新設
事業所内最低賃金の45円以上の引上げを求めるコース(10人以上の区分を除く)
●同一年度内に2回までの申請が可能
例えば、年度当初に助成金を活用した賃上げを行い、10月以降に最低賃金改定対応の賃上げを
重ねて行う場合など
【特例事業者のみに適用】
特例事業者とは、次の2つの要件のいずれかを満たす者のことです。
①賃金要件 :事業場内最低賃金900円未満の事業場
②生産量要件:売上高や生産量などの事業活動を示す指標の直近3ヶ月間の月平均値が前年又は
前々年の同じ月に比べて、30%以上減少している事業者
●助成上限額の特例(全特例事業者に適用)
新設の賃上げ対象者10人以上の助成上限額を適用
▼ 8月1日からの賃上額コースと人数区分別の上限額
●対象経費の特例(②生産性要件を満たす特例事業者が、30円以上の引上げ行う場合のみ適用)
通常は補助対象外である次の設備投資が補助対象となります。
〇乗車定員11人以上の自動車及び貨物自動車等
〇パソコン、スマホ、タブレット等の端末及び周辺機器(新規導入に限る)
事業再構築補助金(経済産業省)
第3回の公募で、最低賃金引上に関する「大規模賃金引上枠」が新設されました。
この枠では、この補助金で最も申請が多い通常枠の要件に加えて、
①事業場内最低賃金の年額45円以上上げること(賃金引上要件)
②従業員数を年率平均1.5%以上増員(初年度1.0%以上)すること(従業員増員要件)
が求められています。
補助額の上限は1億円、補助率は通常枠と同じです。
第3回公募の申請受付開始は8月30日、締め切りは9月21日です。
業務改善助成金とは異なり、事業場内最低賃金の適用人数による、申請上限額の制限はありません。
ただ、その企業での最低賃金を4~6年にわたって年45円(年率では3~4%台)引き上げ続けた場合の給与体系全体への影響や、毎年1.5%の従業員増員による給与原資への影響を考えると、クリアしなければならないことは多いと言わざるを得ません。
第3回公募では、もう一つ「最低賃金枠」が新設されています。
この枠では、大規模賃金引上枠のように賃上げ、従業員の増員は求めていません。
通常枠に加えての要件は、
①2020年4月以降のいずれかの月の売上高が前年または前々年比30%以上
(付加価値額の場合は45%以上)減少していること(最賃売上高等要件)
②2020年10月~2021年6月までの間で、3か月以上最低賃金+30円以内で雇用している
従業員が全従業員の10%以上いること(最低賃金要件)
の2つです。
補助額は、従業員別に次のとおり設定されています。補助率はすべての区分で3/4です。
5名以下 100~ 500万円
6~20人 100~1,000万円
21人以上 100~1,500万円
こちらの枠では、大規模賃金引上枠とは異なり、賃上げ幅や従業員増員の要件はありません。最賃売上高等と最低賃金の2つの要件を満たす企業にそれを求めた場合、申請可能な企業が限られてくるであろうことがその理由として考えられます。
これと別に、従業員1人当たりの生産性(さらに突き詰めると人時生産性)が低く、加えて、労働分配率は8割超の水準で、この先の最低賃金の底上げに対応するのが難しい企業に、生産性向上を促すために設けた枠ではないかというのが私の見方です。
まずは、事業再構築での選択と集中、生産性向上で、厳しい経営状況を脱して事業の持続可能性を高めて、できれば労働分配率を下げつつ、賃金の底上げが行われることを期待しているのかもしれません。
なお、第3回公募要領で、最低賃金枠は、加点措置を行い、緊急事態宣言特別枠に比べて採択率において優遇されるとなっています。
雇用調整助成金等(厚生労働省)
事業場内の最低賃金と地域内最低賃金の差が30円未満の事業場が次の要件を満たした場合の特例措置です。
〇雇用調整助成金等の業況特例又は地域特例の対象となる中小企業であること
〇令和3年1月8日以降に解雇等をしていないこと
〇令和3年7月16日から12月までの間に事業場内最低賃金を30円以上引き上げること
特例措置は、今年10~12月の休業について、休業規模要件(1/40以上)に満たないものでも助成対象に含めるというものです。
助成率や助成額の上限は、8月中に発表予定です。
【この投稿の執筆者】
札幌・新道東コンサルオフィス代表
特定社会保険労務士 塚田 秀和