労働基準法でどのように就業規則が定められているかというところを見ていきます。
就業規則について、法律で定めていること
就業規則について、労働基準法で定めているのは、次の項目です。
この後、順番に見ていきます。 (以下の列挙での[ ]書きは、労働基準法の関係条文)
〇 就業規則作成・届出の義務 [第89条]
〇 就業規則に記載する事項(絶対的記載必要事項、相対的必要記載事項) [第89条]
〇 作成・変更の際の過半数労働組合もしくは過半数代表者からの意見聴取
意見を記載した書面(意見書)の届出時の添付 [第90条第1項及び第2項]
〇 制裁規定の制限 [第91条]
〇 法令、労働協約及び労働契約との関係 [第92条及び第93条]
〇 労働者への周知義務 [第106条]
〇 法の規定に違反した場合の罰則 [第120条]
就業規則作成・届出の義務
作成・届け出の義務は、常時10人以上を使用する者に課せられています。
そして、届出は所轄の労働基準監督署に行います。(本社一括の届出も要件を満たせば可能)
就業規則として届出をする範囲には、就業規則の本則だけではなく、次の規則や規程も含みます。
(就業規則本体と一体として扱うということ)
〇 同じ事業所内で、本則のほかに一部の従業員に適用される就業規則を作成した場合、その就業規則
(例)本則としての正社員就業規則とは別に、パート社員限定で適用するパート社員就業規則を
作成した場合
〇 特定の事項について、就業規則とは別に関連規程を作成して定める場合、その社内規程
(例)給与関係の条文数が多くなったので、就業規則本則とは別に給与規程を作成した場合
就業規則本則に定めるべきこと(別項で説明)を別の就業規則や社内規程を作成して定める場合は、就業規則本則に次の趣旨の規定を設けることが望ましいとされています。
〇 特定の雇用区分を就業規則本則の適用対象から除外して、別途作成する就業規則の適用対象とする規定
(適用除外規定と委任規定)
〇 特定の事項について、別規程で定めることとする旨の規定 (委任規定)
就業規則に記載する事項
就業規則に定める事項について、法では11項目を列挙しています。
それらは、必ず定めなければならない「絶対的必要記載事項」が3項目、その会社で定める場合は記載が必要な「相対的必要記載事項」が8項目に分かれます。
下の図に項目を整理しています。
■ 絶対的必要記載事項について
〇 会社所定の始業及び終業時刻に関連して、フレックスタイム、変形労働時間制、みなし労働時間制等を
導入する場合はその内容を記載します。
〇 休憩時間について、労使協定を締結して一斉休憩の原則の適用除外をするとき(※)は、その労使協定の
内容を記載します。
〇 休日は、国民の祝日の取扱い、法定休日の振替や法定休日勤務後の代休付与を行う場合はその旨、会社
独自の休日などを記載します。なお、法定休日(毎週1回以上)の曜日を特定することまでは求められ
てはいません。
〇 休暇は、年次有給休暇の付与(継続勤務期間と年間付与日数等)、年休の計画的付与や時間年休の付与
などを行う場合はその内容、会社独自の特別休暇制度がある場合はその内容、産前産後の休業、育児・
介護休業などを記載します。
〇 シフト制(就業時転換)に関する事項は、就業番(例:1番、2番、3番)ごとの始業・終業時刻や休
憩時間に止まらず、就業番の転換ルール、一般勤務と交替勤務間の勤務形態の変更に関する事項なども
記載します。
〇 退職関係は、自己都合、定年といった退職の方法とその取扱いを記載します。
なお、解雇をめぐる紛争を未然に防止する観点から、解雇の事由の記載(例えば勤務態度不良、能力不
足など)が求められています。
〇 退職手当については、その会社で支払うことを定めている場合にのみ記載する扱いで相対的必要記載事
項とされています。
■ 相対的必要記載事項について
〇 退職手当については、退職金の支給対象者の範囲を定めた上で、退職金の算出に使う要素(勤続年数、
退職理由など)、それらの要素を使った計算方法、支払方法(支払時期も含めて)を一時金払、年金払
のいずれにするのかといったことを記載します。
また、その会社独自に退職手当の不支給や減額について定めるときにはその理由を併せて記載します。
〇 臨時の賃金等は、賞与、臨時的、突発的事由に基づいて支払われるものなどを指しています。
〇 安全衛生に関する事項として挙げられるのは、安全衛生に関する遵守事項、安全衛生教育、労働者の健
康診断、健康診断結果を踏まえた措置、長時間労働者に対する医師による面接指導、ストレスチェック
といったものです。
〇 制裁については、けん責、減給、出勤停止、諭旨解雇及び懲戒解雇といった懲戒の種類を記載し、それ
らの懲戒処分を行う理由を列挙することが求められています。
なお、就業規則に記載されていない理由での懲戒処分はできません。
絶対記載しなければならない事項は3つのみです。実のところ、就業規則の条文数を増やしているのは、その会社で定めるときには記載しなければならない相対的な必要記載事項ということが多いようです。
相対的必要記載事項のうち、その他全労働者に適用される事項については、近年のトピックを見ても、ハラスメントの禁止、個人情報保護、有期契約労働者の無期転換制度、公益通報者保護、副業・兼業の取り扱いなど記載しておいた方が良いとみられる事項が多くあります。
作成・変更の際の意見聴取
就業規則を作成又は変更するときに使用者は、その事業所に所属する労働者の過半数で組織する労働組合(過半数労働組合)、そのような組合がなければ、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)の意見を聴かなければならないとされています。意見聴取の結果は、書面にして就業規則を届け出る際に添付しますが、その書面には、労働側の代表者の署名又は記名押印が必要です。
反対の意見が出された場合については、就業規則に関する法律上の他の要件を満たしていれば、就業規則の効力には影響がないとされています。
ただし、就業規則の変更により、労働契約の内容を労働者に不利益となる形に変更することは、その内容について、労働者と合意することなくできないと、 労働契約法第9条で定められています。
これについて、労働契約法第10条で、合意なくして労働条件の不利益変更を行える場合の要件が定められていますが、すべて満たすことは難しいケースが多いと考えられます。
【過半数代表者について】
過半数労働組合がない場合に、意見聴取を受ける過半数代表者の要件は、
〇 労働基準法上の管理監督者以外のものであること
〇 就業規則の作成・変更に際して、労働者代表として意見聴取を受ける者を選出すること
を明らかにした上で、投票や挙手などの方法で選出された者であること。
加えて、使用者から指名を受ける等、使用者の意向により選出されたものでないこと。
の2つです。
ですから、事業所の職員親睦のための任意団体の代表者などを、そのまま過半数代表者に充てることはできません。
制裁規定の制限
これは、就業規則で減給の制裁を定める場合についての規定です。
具体的には、減給に次の2つの制限をかけています。
〇 1回の事案に対しては減給の総額を、平均賃金1日分の半額以下とすること
〇 1賃金支払期に発生した複数の案件に対する減給の総額を、当該賃金支払期における賃金の総額の
10分の1以内とすること
遅刻や欠勤があったときに、ノーワーク・ノーペイの原則に従い、勤務しなかった時間(労務の提供がなかった時間)に対応する賃金を減額することは、ここでいう制裁にあたりませんが、その対応部分を超えた減額は、制裁となりこの制限の対象となります。
上記の「当該賃金支払期における賃金の総額」は、実際に支払う額ですから、遅刻、欠勤などでの減額があった場合は、減額後の実際の支払額で10分の1以内の判定をします。
また、賞与の減額で制裁を行う場合も、前記の2つの制限は適用されます。(当該賃金支払期における賃金の総額は、「賞与額」に読み替えます。)
法令、労働協約及び労働契約との関係
就業規則は、法令やその事業場での労働協約に反してはならないと労働基準法第92条で定めています。
これらに反した就業規則については、所轄労働基準監督署長が文書により変更命令を行うことができます。
また、個別の労働契約で定める労働条件が、就業規則で定めるそれを下回っている場合については、労働契約法第12条に規定されています。具体的には、労働契約の該当部分は無効となり、就業規則で定める水準に引き上げられ、一方で、無効となった部分を除く当該労働契約は有効であり続けます。
労働者への周知義務
就業規則について、労働基準法で規定する協定や決議と同様に、従業員(労働者)に周知する義務を定めています。
周知の方法は、3つ挙げられています。
〇 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること。
〇 書面を労働者に交付すること。
〇 法令やその事業場で磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、各作業場に
労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
法の規定に違反した場合の罰則
次の法違反について、30万円以下の罰金の対象となります。
〇 就業規則作成・届出の義務 [第89条]
〇 就業規則に記載する事項(絶対的記載必要事項、相対的必要記載事項) [第89条]
〇 作成・変更の際の過半数労働組合もしくは過半数代表者からの意見聴取 [第90条第1項]
〇 制裁規定の制限 [第91条]
〇 労働者への周知義務 [第106条]
自社直営で就業規則を作成・見直す際に注意するポイント
自社直営で就業規則を作成・見直す際の参考に、注意するポイントを挙げています。
【就業規則の適用範囲を明確にする】
時間的な余裕がないときは、まず厚生労働省のモデル就業規則の関係条文と解説に当たってみることです。それでも判断できないときは、その法規制などに関するリーフレットやパンフレットにも当たって確認してみてください。
【法律関係のチェックはしっかりと行う】
時間的な余裕がないときは、まず厚生労働省のモデル就業規則の関係条文と解説に当たってみることです。それでも判断できないときは、その法規制などに関するリーフレットやパンフレットにも当たって確認してみてください。
【条文数が過大にならないよう注意する】
検討を進めていく中で、規定しておいたほうが良いという事項が次々と出てきて条文数が増え続けていくのは、就業規則作成での落とし穴です。
特に禁止事項やリスク回避に関する事項については、手間は増えますが、想定される問題の発生頻度、発生した時の影響の度合いを参考にして、規定自体をしない、その他の類する事項としてまとめられるものはないか検討することをお勧めします。
【同業他社などの就業規則を参照するときは注意が必要】
参照した就業規則は、あくまでもそれを作成した同業他社に合わせてカスタマイズされたものですから、自社に合うかどうか漏れなく検討していきます。
時折みられる、委任規定はあるが、委任先の社内規程がないといったことは、同業他社や市販の書籍の就業規則本則をを深く検討せずに下敷きとしてしまうことが原因の一つと筆者は考えています。
【10人未満の会社でも就業規則の周知はしておく】
労働基準監督署への届出義務の対象とならないといっても、その就業規則の適用を受ける従業員への内容周知の必要性が変わることはありません。
【今後、雇用区分間で賃金、待遇に差をつける場合は注意が必要】
2021(令和3)年4月から中小企業にパート・有期雇用労働法が適用されていますので、その法令で示された均等待遇、均衡待遇などの考え方に沿った賃金や待遇の決め方をしているかどうか確認する必要が生じます。
【この投稿の執筆者】
札幌・新道東コンサルオフィス代表
特定社会保険労務士 塚田 秀和