82 雇用契約締結時などの労働条件の明示について

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使用者(事業主)から労働者への労働条件の明示が法律上義務付けられている場合は、次の3つです。
 イ 労働基準法に基づく雇用契約締結時の労働条件の明示
 ロ パートタイム・有期雇用労働法に基づく雇い入れ時の労働条件の明示
 ハ 労働者派遣法に基づく就業条件の明示

ここでは、そのうちイとロの2つを見ていきます。 

 上記イ、ロで明示する事項や範囲のイメージは、右図のとおりです。
 イの労働基準法での明示は、労働基準法上の労働者が対象で、パートタイマーや有期契約社員も含まれています。

 ここでは、契約期間や就業場所など5項目(有期契約は更新基準を含め6項目)について、書面の交付により必ず明示するよう義務付けています。なお、賃金関係のうち「昇給」のみが必ず明示するが口頭でも可という位置づけです。
 そして、それ以外に会社で定めがあるときに文書または口頭で明示する項目が8項目列挙されています。

 

 ロのパートタイム・有期雇用労働法に基づく明示では、パートタイマーや有期契約社員について書面の交付で必ず明示する「特定事項」として、昇給などの規定の適用の有無、パートタイマーや有期契約社員からの相談窓口関連が挙げられています。つまり、パートタイマーや有期契約社員短時間・有期雇用労働者)に対しては、その他の正社員や無期契約社員より広い範囲で厳格な労働条件の明示が法律上求められているということです。
 ここまで読んで、イの明示事項が就業規則の法律上の記載事項(絶対的必要記載事項、相対的必要記載事項)に重なる部分が多いことにお気づきの方もおられるかと思います。   

  

イ 労働基準法に基づく明示の内容

 雇用契約締結時に、使用者から労働者へ明示しなければならない労働条件は次のとおりです。(労働基準法第15条第1項、同施行規則第5条)
 対象となる労働基準法上の労働者は、いわゆる正社員や無機契約社員、パートタイマー、有期契約社員などを含みます。
   

必ず明示する項目

 雇用契約締結時に、使用者から労働者へ必ず明示しなければならない労働条件は次のとおりです。
 明示の方法は、「書面の交付」とされています。( 例外:5のf) 昇給のみ口頭での明示が可能)
 (労働基準法第15条第1項、同施行規則第5条)

1. 労働契約の期間

期間の定めがない契約の場合は、その旨を示す。   

2. 有期労働契約の更新の基準(有期雇用労働者のみ)

 更新の基準として明示することが考えられるのは、

・更新の有無として、
  a) 自動的に更新する
  b) 更新する場合があり得る
  c) 契約の更新はしない など

・契約更新の判断基準として、
  a) 契約期間満了時の業務量により判断する
  b) 労働者の勤務成績、態度により判断する
  c) 労働者の能力により判断する
  d) 会社の経営状況により判断する
  e) 従事している業務の進捗状況により判断する など

3. 就業場所・従事すべき業務

雇い入れ直後の就業場所、従事すべき業務を示せば良い。  

4. 始業・終業時刻、所定労働時間超えの労働の有無、休憩時間、休日、休暇、2交代制等に関する事項

・その労働者に適用される労働時間等を具体的に示す。 
・明示する内容が多くなるときは、これらに関する勤務の種類ごとの考え方を明らかにして、就業規則の関連する条
 項名を示せば良い。
  →所定時間外の労働の有無のみは、この扱いの対象外でありすべて書面で明示する) 

5. 賃⾦の決定・計算・⽀払⽅法、賃⾦の締切・⽀払時期

 示すのは労働契約締結後初めて支払われる賃金に関するものであり、
 具体的には

  a) 基本賃金の額
    (→出来高払では、出来高に対する基本単価、保障給)
  b) 手当の額、支給条件
  c) 時間外、休日、深夜労働の割増賃金率について、特別の率を定める場合はその率
  d) 賃金の締切日
  e) 賃金の支払日

  f) 昇給

 (※) 上記a)~f)のうち昇給に関する事項のみ口頭での明示が可能とされている。

6. 退職(解雇を含む)に関する事項

退職の事由とその手続き、解雇の事由などを示す
明示する内容が多くなるときは、就業規則の関連する条項名を示せば良い
  →実務上は、就業規則での関連規定の多さからこの取り扱いとせざるを得ないケースが多いと考えられます。
        

会社で定めがあるときに明示する項目

 会社でその項目に関する定めがある場合に、明示が必要となるものです。その方法については、口頭による明示でも可とされています。
 (→使用者が該当する事業所で定めていないものは、明示の義務はない。)

7. 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算や支払の方法退職手当の支払時期

8. 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与、第八条各号に掲げる賃金、最低賃金額

 上記のうち賞与と最低賃金額以外について、
 具体的には、


・臨時に支払われる賃金
  a) 臨時的、突発的事由により支払われるもの
  b) 結婚手当などの様に支給条件はあらかじめ確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、
    かつ非常にまれに発生するもの

第八条各号に掲げる賃金
  a) 精励手当
    (→1か月を超える期間の出勤成績により支給されるもの)
  b) 勤続手当
    (→1か月を超える一定期間の継続勤務に対し支給されるもの)
  c) 奨励加給または能率手当

    (→1か月を超える期間での事由により算定されるもの)

9. 労働者の実費負担等(食費、作業用品その他に関する事項)

10. 安全及び衛生に関する事項

11. 職業訓練

12. 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項

13. 表彰及び制裁

14. 休職
   

「シフト制」により就業する労働者への労働条件の明示

始業及び就業の時刻
   書面によりそれらを明示するとき、単に「シフトによる」とするだけでは足りず、次のような対応が
  必要となる。

   ・書面に労働日ごとの始業及び終業時刻を記載する。
   ・書面に原則的な始業及び終業時刻を記載した上で、一定期間のシフト表などを明示の書面とあわせ

    て労働者に交付すること。

〇 休 日
   労働契約の締結時に、
   ・休日が定まっている場合は、明示しなければならない。
   ・具体的な曜日などが確定していない場合は、休日の設定に関する基本的な考え方を明示しなければ
    ならない。

    

ロ パートタイム・有期雇用労働法に基づく明示の内容

 短時間・有期雇用労働者の雇い入れ時に、前記イで書面の交付により必ず明示するとされたもの以外で、短時間・有期雇用労働者にとって重要なものを4つ「特定事項」として、文書の交付により明示しなければならないとした。
(→パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項、同施行規則第2条)
 ここでの「雇い入れ時」は、最初の有期労働契約の時に止まらず、その更新時も含む。

 この明示は、イの労働基準法に基づく明示と併せて行ってもよい。また、イの明示内容に含まれた形になっている場合や、就業規則を交付することで明示内容が明らかになっている場合には、それらの措置だけでよい。
   

特 定 事 項

1. 昇給の有無

一つの契約期間の中での賃金の増額の有無を示す。
  (→契約更新時の賃金改定は、これに該当しない)   

2. 退職手当の有無

労働契約などであらかじめ支給条件が明確であり、退職により支給されるものの有無を示す
  (→一時金、年金など支給形態は問わない)

3. 賞与の有無

定期又は臨時に支給され、その支給額があらかじめ確定されていないものの有無を示す。

4. 相談窓口に関する事項

短時間・有期雇用労働者からの苦情を含めた相談を受け付ける窓口でパートタイム・有期雇用労働法で設置が義務
 付けられているもの。
明示内容の具体例として、担当者の氏名、役職、担当部署などが考えられる
  

交付する書面の書式

 労働者に交付する書面の様式は自由ですが、厚生労働省がモデル労働条件通知書としてひな形を公開しています。また、その労働者に適用する部分を明確にして就業規則を渡す対応も可能です。

    

書面交付以外の明示方法

 明示を受ける労働者が希望したときに限り、FAX、メール、SNSのいずれかの方法で明示を行うことができます。
 それらのうちFAX以外の方法は、その受信者を特定して情報伝達するもの、本文や添付ファイルを紙出力して書面を作成することが可能であるものに限られます。
 具体的には、


 ・メールについては、Eメール、Yahoo!メール、Gmail等のWebメールサービス
 ・SNSについては、LINEやメッセンジャーといったSNSメッセージ機能等であり、RCSやSMSも含む。
  ただし、RCSやSMSはファイル添付や文字数制限の問題があるため、あくまでも例外的な方法という位置づけ。


 また、次のような第三者が閲覧可能な方法での明示は認められていません。
 ・明示を受ける労働者が開設しているブログ、ホームページ等への書き込み
 ・明示を受ける労働者のSNSのマイページにコメントを書き込むこと

   

文書交付以外で、明示が対象労働者に到達したものとみなされる時点

〇 FAX
  ・対象労働者が使用するFAX装置で受信した時
    (対象労働者が希望するときは、対象労働者以外の者が所有する装置を含む)


WebメールサービスSNSメッセージ機能など
  ・対象労働者が使用する通信端末等で受信した時が原則
  ・必ずしも通信端末等に到達しない方法を使用する場合は、明示に関するメール等の送信があった
   ことが、受信履歴などにより(通常であれば)認識できる時
    (対象労働者が希望するときは、対象労働者以外の者が所有する通信端末等を含む)

    

明示した内容が事実と相違したときの労使双方の対応

イの労働基準法に基づく明示に関するケース

1. 労働契約の解除

使用者から受けた明示の内容と事実が相違していた場合には、労働者側から即時に労働契約を解除できる。
 (労働基準法第15条第2項)

2. 帰郷旅費

・1の即時解除があったケースで、その労働者が就業のために住居を変更していて、解約解除の日から14日以内に帰
 郷する場合には、必要な旅費を使用者が負担しなければならない。(労働基準法第15条第3項
  (→その労働者の就業のために移転していた家族の帰郷旅費も含む。)

パートタイム・有期雇用労働法に基づく明示に関するケース

労働契約の解除、帰郷旅費を含め、法律上の定めはない。

    

法律違反の罰則

イの労働基準法に基づく明示に関するケース

 労働条件の明示義務(労働基準法第15条第1項)もしくは、法第15条第2項により労働契約を即時解約した労働者の帰郷旅費の使用者負担(法第15条第3項)に違反した場合、30万円以下の罰金。
  

パートタイム・有期雇用労働法に基づく明示に関するケース

 特定事項の明示義務(パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項)に違反して、都道府県労働局長による助言、指導、勧告があってもなお明示義務を履行しない場合は、公表の対象となるとともに、10万円以下の過料に処される。