81 複数就業者(副業・兼業)の労災保険給付について

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以前の労災保険給付での問題点(2020年8月まで)

 以前の労災給付(2020年8月まで)では、複数の会社(事業場)に雇用されている方が、業務実施中や通勤途中で事故に遭うなどした場合は、いずれか1つの会社での業務災害または通勤災害として処理され、労災給付が行われていました。そして、労災保険の給付額の計算は、いずれか1つの会社での給与をベースに行い、複数の会社に雇用されていることは反映されていませんでした。
 また、長期にわたり病状が進行していく心疾患や脳疾患、精神疾患などについても、病状の進行(法律上用いてる医学用語では「憎悪」といいます)の原因の評価を、1つの事業場の業務での負荷やストレスなどを対象に行っていました。つまり、複数の事業場で就業していることでの負荷やストレスという評価はなされていませんでいた。
 副業・兼業の促進が国の施策となる中、労災保険の制度が複数の会社での雇用に対応していないことが問題となりました。

 参考にわかりやすい例で、同じ日に2つの会社で働く方が、通勤途中で事故でけがをした場合の過去の取り扱いを図にしてみました。

  2020(令和2)年9月施行の労災保険法改正で、 複数の会社に勤務する方に対応した仕組みが導入され、例えば、上の図の3つのケースすべてについても、労災給付の計算「A社・B社月給の合計額45万」で行うように改められています。
 そして、 長期にわたり病状が進行していく疾患の原因の評価についても、対応が行われています。
 その法改正の概要は、以下のとおりです。

   

法改正での新たな取扱い・制度 (2020年9月以降)

 複数事業労働者を対象にして、次の点で法改正が行われました。
 これらの改正事項の対象となるのは、改正法施行日の2020(令和2)年9月1日以後発生した傷病等です。
 

■ 業務災害、通勤災害での給付額算定方法

 労災保険での給付のうち金銭での給付額の算定に用いる「給付基礎日額」(原則は労働基準法上の平均賃金)は、非災害発生事業所(労働災害が発生した事業場以外の事業場)も含めたすべての事業所について算出した額の合計額を用いることとされました。
 実際の申請手続きでは、事業所ごとに平均賃金を算出して別葉で提出します。
     

■ 複数業務要因災害

 脳・心臓疾患や精神障害といった、複数の事業所それぞれでの業務を要因とする労働災害の区分です。
 複数の事業場での業務上の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して、労災と認定できるか判断します。そこで、要因が特定の一事業場にあると判断された場合は、業務災害として取り扱われます。

 この複数業務要因災害に関する保険給付として次の給付が新設されています。
 
 複数事業労働者休業給付、複数事業労働者療養給付、複数事業労働者障害給付、複数事業労働者遺族給付、
 複数事業労働者葬祭給付、複数事業労働者傷病年金、複数事業労働者介護給付

   

複数事業労働者

 複数事業労働者は、 負傷したり、疾病となった時点(※)で、次の3つのいずれかに該当する方です。
 〇 負傷したり、疾病となった時点で、事業主が異なる複数の事業場に雇用されている方
 〇 一の事業場に雇用され、他の就業について特別加入している方
 〇 複数の就業について特別加入をしている方


  (※)傷病等の発生日または診断によって疾病の発生を「算定事由発生日」といいます。

 上記の3つの要件とは別に、算定事由発生日には、複数の事業場に雇用されていない場合でも、その原因や要因となる事由が発生した時点で、複数の事業場に雇用されていた場合には「複数事業労働者に類する者」として、改正事項の適用対象となり得ます。例として考えられるのは、複数業務要因災害の対象である脳・心臓疾患や精神障害といった疾病です。

   

【特別加入者】

 事業主に雇用される労働者ではないが、それに準じた保護がふさわしいとみなされて、労災保険へ加入できる者のことです。 労働者に準じた保護がふさわしいかどうかは、その業務の実態や、災害の発生状況から見ています。
 その範囲は、①中小事業主等、②一人親方等、③特定作業従事者、④海外派遣者の4つです。

労災保険給付の額

 複数事業労働者への労災保険での給付額は、従来からの業務災害、通勤災害での額と同じです。
 2020年9月施行の法改正は、あくまでも給付対象の拡大に関するものです。
  

特別支給金

 特別支給金は、労災保険給付に上乗せする形で支給されるもので、労災保険の中の社会復帰促進等事業として行われています。例えば、労災保険の休業補償給付は、1日あたり給付基礎日額の60%相当額が支給されますが、これに加えて、特別支給金として20%相当額を支給することで、対象者が実質的には80%相当額を受け取る形になります。

 特別支給金のうち、賃金や特別給与(賞与)の額に基づいて算定するものは、非災害発生事業場でのものも合算した上で給付額を算定することになっています。
  

事業主の労働基準法上の災害補償責任

 複数就業先での業務上の負荷をあわせて評価してはじめて疾病との間に因果関係が認められた場合(複数業務要因災害)では、いずれの就業先の事業主も責任を負いません。これは、それぞれの就業先の負荷だけでは因果関係が認められない(労災として不認定となる)のであれば、個々の責任は問えないという考え方によるものです。
 また、事故による負傷や、一の事業場での負荷による疾病が発生したときの、非災害発生事業場の事業主も同様に責任を負いません。
       

保険料の負担について

 非災害発生事業場での賃金による保険給付費用は、全業種一律の負担となります。
(令和3年度労災保険率での非業務災害分:0.6%)

 非災害発生事業場での賃金に基づく保険給付額は、
 ① 非災害発生事業所が属する業種の保険料の算定基礎
 ② 非災害発生事業所のメリット収益率の算定基礎
   (業務災害が発生した事業場の賃金に相当する保険給付額のみがメリット制に影響 )
のいずれにも含めません。

 上記①、②の取り扱いは、疾病について複数業務要因災害として労災認定された場合の、すべての事業場の保険給付額でも同じです。

   

【この投稿の執筆者】
  
 札幌・新道東コンサルオフィス代表
    特定社会保険労務士 塚田 秀和

代表 塚田秀和