71 事業譲渡や合併での労働契約の承継について

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 事業再編・統合の手法としてのM&Aの手法は、①株式譲渡、②事業譲渡、③合併(吸収合併)、④会社分割(吸収分割)の4つです。
 これらの実施に伴う労働者の承継については、
 ②事業譲渡に伴う会社間の承継について、事業譲渡等指針、
 ④会社分割(吸収分割)の承継では、契約契約承継法、承継法指針
がそれぞれ定められており、③合併(吸収合併)についても、事業譲渡等指針の最後の項で基本的な考え方が簡潔に述べられています。
  

  

労働契約承継法及び承継法指針

 労働契約承継法とその指針では、会社分割での分割会社と承継会社等の間での労働契約の承継に際して必要となる労働者保護の手続きについて、時系列で右図の5つを定めています。

※)こでの「承継会社等」は、吸収分割における承継会社と、新設分割における

  における設立会社のことです。
  

▼以下で、5つの手続き事項をぞれぞれ説明します。 

1-1 労働者の理解と協力を得る努力

 分割会社は、過半数労働組合もしくは過半数代表者との協議などにより、労働者の理解・協力を得るよう努めることが望ましいとしています。そして、この協議を行う場合は、次のイ~ホの事項について、おそくとも「労働者との事前の協議開始」までに始める必要があります。
 また、会社側は、労働組合からの会社分割に関する団体交渉を、この手続きを行っていることを理由に拒否することはできません。

イ 会社分割の背景・理由
ロ 双方の会社の債務履行の見込み
ハ 労働者が「3.労働者・労働組合への通知」の対象に該当するか否かの判断基準
ニ 労働協約の承継
ホ 会社分割に当たって生じた労働関係上の問題の解決手続
  

  

1-2 労働協約の債務的部分の承継に関する労使合意

 労働協約の内容は、次のイ、ロに二分して考えます。

イ 「規範的部分」として、労働条件その他労働者の待遇に関する基準を定める部分で個々の労働契約を直接規律
 する規範的効力を持つもの


ロ 「債務的部分」として、規範的部分以外の部分を指すもの
   (→例えば、労働組合への便宜供与、団体交渉の手続・ルールなど)

 労働協約の内容のうち債務的部分の承継については、次のハ、ニのいずれも行う必要があります。
 そして、いずれについても、分割契約等の締結前にあらかじめ労使間で協議を行い、合意等しておくことが望ましいとされています。

ハ 分割会社と労働組合との間での合意
ニ 該当する部分を承継させる旨の分割契約などへの記載  

  

2 労働者との協議

 次項の「3.労働者・労働組合への通知」の対象となる労働者に対して、その通知期限日までに、会社分割に伴う労働契約の承継についての事前の協議を行います。
 その協議を行うにあたって留意する事項として、次のイ~ホが示されています。   

イ 協議開始の時期

通知期限日までに十分な協議ができるように時間的余裕をもって協議を開始すること

ロ 説明する事項

次のa~cなどの事項について、説明する。
 a) その労働者が勤務する会社の概要
 b) 双方の双方の会社の債務履行の見込み
 c) 「3.労働者・労働組合への通知」の対象に該当するか否かの考え方

ハ 協議する事項

本人の希望を聴取した上で次のa、bなどの事項を協議する。
 a) 本人の労働契約の承継の有無
 b) 承継する、しないのいずれかとした場合における、その者が従事予定の業務内容、

   就業場所その他の就業形態

二 代理人としての
  労働組合

この協議の代理人として、労働者が労働組合を選定した場合は、その労働組合と誠実に協議すること

ホ 会社分割の無効の
  原因との関係

この協議を全く行わなかった、もしくは実質的にこれと同視できる場合は、対象となる会社分割の無効の原因となり得る。

  

3 労働者・労働組合への通知

イ 通知対象

〇 通知対象となる労働者は、次のa、bの2パターン。
 a) 主に承継事業に従事する労働者(主従事労働者)
 b) 主従事労働者以外で承継対象とされた労働者(承継非主従事労働者)

〇 通知対象となる労働組合は、当該分割会社との間で労働協約を締結している組合

ロ 通知事項

通知すべき事項として、対労働者で10項目、対労働組合で7項目が定められています。

 a) 労働者に通知すべき事項(10項目)

① 会社分割により承継される場合には労働条件を維持したまま承継されること
② 当該労働者が承継会社等に承継されるという分割契約等の記載の有無
③ 当該労働者が異議を申し出ることができる期限日
④ 当該労働者が承継法第2条第1項各号のいずれに該当するかの別
⑤ 承継される事業の概要
⑥ 分割後の分割会社及び承継会社等の名称、所在地、事業内容及び雇用することを予定して

  いる労働者の数
⑦ 会社分割がその効力を生ずる日
⑧ 分割後の分割会社又は承継会社等において当該労働者について予定されている従事する業

  務の内容、就業場所その他の就業形態
⑨ 分割後の分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項
⑩ 承継法第4条第1項又は第5条第1項の異議がある場合はその申出を行うことができる旨

  及び異議の申出を行う際の当該申出を受理する部門の名称及び所在地又は担当者の氏名、
  職名及び勤務場所
  

 b) 労働組合に通知すべき事項(7項目)

① 承継される事業の概要
② 分割後の分割会社及び承継会社等の名称、所在地、事業内容及び雇用することを予定し

  ている労働者の数
③ 会社分割がその効力を生ずる日
④ 分割後の分割会社及び承継会社等の債務の履行の見込みに関する事項
⑤ 分割会社と当該労働組合との間で締結している労働協約が承継会社等に承継されるとい

  う分割契約等の記載の有無
⑥ 承継される労働者の範囲(労働組合にとって労働者の氏名が明らかとならない場合には

  労働者の氏名)
⑦ 労働協約を承継させる場合には、承継会社等が承継する労働協約の内容

ハ 通知方法

書面の交付であり、その通知書の様式が、労働者・労働組合の別、吸収分割・新設分割の別で計4種類提供されています。

ニ 通知期限日

法律上の通知期限日は、組織形態や承継方法により次のa、b2つのパターンとなります。
また、指針ではこれらとは別に通知日を行う日として望ましい日(通知日)も定めています。

 

  

4 該当労働者による異議の申出

 この申出のしくみは、労働者を、これまで主に従事してきた業務から切り離される不利益から保護するという考えに基づくものです。
 対象者と申出の対象となる通知内容、申出の法的効果は下表のとおりです。

  


 

 次の異議申出期限日までに適切に異議申出が行われた場合に、会社分割の効力が生じた日に異議申出の効果が発生します。

    

  

5 労働契約の承継・不承継

 分割の効力が生じた日に、分割契約等に承継の定めのある労働契約が承継会社等に承継されます。
 一定の労働者が異議の申出を行った場合には、前述のとおり労働契約の承継・不承継が覆ることになります
。  

  

事業譲渡等指針

 この指針は、事業譲渡に伴う譲渡会社(事業の売り手)と譲受会社(買い手)の間での労働契約の承継に際して必要となる労働者保護の手続きで、留意すべき事項について定めたものです。
  

1 事業譲渡での承継予定労働者との事前協議

 事業譲渡における労働契約関係の権利義務の承継は、特定承継(個別の債権者の同意を必要とする承継)です。そのため、譲渡会社などへの労働契約の承継に際して、承継予定の労働者から事前に「真意による承諾」を得る必要があります。
 その承継予定労働者からの承諾を得るにあたって留意する事項として、次のイ~ホが示されています。

  

イ 協議の実施時期

承継予定労働者に十分な説明をするなど時間的余裕を見て協議を行うのが適当であること

ロ 説明する事項

次のa、bなどの事項について、説明する。
 a) 双方の会社の債務履行の見込みなどを含んだ事業譲渡に関する全体の状況
 b) 譲受会社の概要、就業業務内容や就業場所といった労働条件

ハ 労働条件の変更を
  伴う場合

労働条件を変更しての承継は、その変更についての同意を得ること

二 代理人としての
  労働組合

この事前協議の代理人として、労働者が労働組合を選定した場合は、その労働組合と誠実に協議すること

ホ 承諾後の取り消し

意図的な虚偽情報の提供などにより得た承諾は、承継予定労働者による取り消しがなされ 得ること
 (→民法第96条第1項の詐欺又は脅迫による意思表示の取り消し)
  

 この事前協議の結果、承継への同意が得られなかった場合は、その労働者を譲渡対象外の事業部門に配置転換などする必要があります。
 承諾が得られなかったことのみを理由とした解雇は一定の場合には、使用者の権利濫用であるとされ認められません。

 ここでいう「一定の場合」とは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない場合を指します。

  

2 事業譲渡での労働組合などとの手続

 譲渡会社は、過半数労働組合もしくは過半数代表者との協議などにより、社内労働者の理解・協力を得るよう努めるものとしています。そして、このときの協議事項で考えられるものとして次のイ~ニを挙げています。
 なお、労働組合からのこの事業承継に関する団体交渉を、その組合が承継対象労働者の代理として事前の協議をしていることを理由に拒否することはできません。

イ 事業譲渡の背景・理由
ロ 双方の会社の債務履行の見込み
ハ 承継予定労働者の範囲
ニ 労働協約の承継
 など

  

3 合併にあたって留意すべき事項

 合併における権利義務の承継の性質は、いわゆる包括承継であるため、合併により消滅する会社等との間で締結している労働者の労働契約は、合併後存続する会社等又は合併により設立される会社等に包括的に承継されます。このため、労働契約の内容である労働条件についても、そのまま維持されることに留意が必要です。(指針原文のまま)

  

【この投稿の執筆者】
  
 札幌・新道東社労士オフィス代表
    特定社会保険労務士 塚田 秀和

代表 塚田秀和