70 多様な正社員導入の実務上の注意点について

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 今年(2022年)年6月の「骨太の方針2022」では、前年に続き「ジョブ型の雇用形態」に触れられていました。
 骨太の方針や規制改革推進会議でいうところの「ジョブ型の雇用形態」は、職務や勤務場所、勤務時間が限定された働き方等を選択できる雇用形態のことで、これら3つの労働条件が限定されていないメンバーシップ型の雇用形態に比べて、多様な働き方を可能としてくれるものです。

 
 「多様な正社員」は、骨太の方針等でのジョブ型正社員とほぼ同義であり、職務、勤務地、勤務時間(労働時間)に限定を設けた勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員とその混合型が考えられます。
 また、その働き方は、働く意欲と能力はあるものの、育児や介護といった家庭の事情などでフルタイムでの雇用に応じることができなかった方々にも受け入れ可能なものです。

 今から10年以上前の2011(平成23)年に、厚生労働省が学識者等による研究会を設置して、多様な正社員についての検討を行っています。
 その研究会の1回目では、次のような論点が示されています。

○ 非正規労働者の現状等を踏まえ、多様な形態による正社員という働き方についてどのように考えるか。
  労使が選択しうるような環境整備を図ることについてどのように考えるか。

○ 多様な形態による正社員について、企業の雇用管理の実態や実例に即して、次のような点を検討しては
  どうか。

・多様な形態による正社員としてどのようなものがあり得るか。
 (勤務地限定正社員など)

・労使双方において、正社員と評価されるにはどのような雇用管理を行うべきか。
 また 、 勤務地など一定の制約を伴うこととの関係についてどのように考えられるか。
 (給与、昇進・昇格の有無、教育訓練制度など)

・制度の円滑な導入のために、どのような方法が考えられるか。
 (労使の話し合い、社内全体の理解の促進など)

・トラブルの防止や解決方法など、制度の具体的な運用に当たって留意すべき点は何か。
 (苦情処理制度など)

 その後、厚生労働省の有識者懇談会で、多様な正社員の雇用管理上の留意事項を「多様な正社員の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」(2014年)として整理しています。
 その内容は、働き方改革関連の複数の法改正を経た現在でも通用するものであり、今回はその概要をご紹介します。

 以下の文中での「いわゆる正社員」とは、多様な正社員の区分を設ける前からあった職務、勤務地、労働時間(勤務時間)が無限定な正社員のことであり、既存の正社員と考えてください。
  

  

多様な正社員が活用されるケース

 職務限定、勤務地限定、勤務時間限定(短時間正社員)のそれぞれについて、次のとおり整理されています。  

職務限定正社員

〇 特に高度な専門性を必要とし、その能力を期待して外部労働市場から採用される者(※)
〇 資格が必要な職務、同一の企業内で他の職務と明確に区分できる職務などでの活用

〇 ゼネラリストではなく特定の職務のスペシャリストとしてキャリア・アップさせる目的での活用
〇 非正規雇用の労働者が、継続的なキャリア形成によって特定の専門的な職業能力を習得して雇用の安定を
  実現する目的での活用

〇 総合職と比較して職務の範囲が狭い、工場の技能労働者、店舗販売員、一般職などの職務の範囲に一定の幅を
  持たせたること

 (※)職務の内容が職務記述書などで明確にされ、必ずしも長期雇用を前提とせず、企業横断的にキャリア・
    アップを行う等、プロフェッショナルとして活用される。
  

勤務地限定正社員

〇 育児、介護等の事情により転勤が困難な者
〇 地元に定着した就業を希望する者
〇 無期転換ルールによる転換後の受け皿としての活用

〇 コース別雇用管理での一般職が多い分野で、より幅広い職務や高度な職務を担わせ、意欲や能力の発揮に
  つなげるための活用
〇 グローバル展開が進展する分野での、海外転勤の可否への対応
〇 多店舗展開のサービス業での、地域ニーズ対応のサービス提供や顧客確保を目的とした活用

  

勤務時間限定正社員(短時間正社員)

〇 育児、介護等の事情により長時間労働が困難な者
〇 キャリア・アップに必要な能力の習得への対応で勤務時間を短縮する者
  

  

制度の設計・導入・運用に当たっての労使コミュニケーション

 労働者の納得性を得て円滑な運用を可能にするには、十分な協議と労働者に対する十分な情報提供が必要。

〇 労働組合がない場合でも、労使委員会の実施や過半数代表との協議を行うこと
〇 管理職のマネジメント能力の向上を図るため、各職場の実情に即した検討が求められること
   

  

労働者に対する限定の内容の明示

 勤務地などの限定の内容や、当面だけなのか将来にわたるのかを明示することで、労働者は将来のキャリアの見通しがつきやすくなり、企業も人材確保でのメリットがある。
 加えて、その内容を書面で確認することが望ましい。(労働契約法第4条)


 内容の明示と確認については、2019(令和元)年5月に規制改革推進会議から「ジョブ型正社員(勤務地限定正社員 、職務限定正社員等)の雇用ルール明確化に関する意見」として次の意見が出されています。

➤勤務地(転勤の有無を含む。)、職務、勤務時間等の労働条件について予測可能性を高められるよう個々の労働者と事業者との間の書面(電子書面を含む)による確認を義務付け、必要な法令の見直しを行うべきこと。

➤労働条件を確認する手段として、検討を行うべき事項としては、
 ①労働契約締結及び変更時における限定の内容の書面による確認を義務化
 ②勤務地変更(転勤)の有無、転勤の場合の条件について労働契約締結及び変更時における書面
  での明示を義務化
 ③勤務地の変更(転勤)の予定、地域限定での正社員の使用がある場合にその旨をあらかじめ就
  業規則に記載すること
 の3つがあること。

➤無期転換ルールが周知されるよう、無期転換申込権を保有する労働者に対し、対象となる労働者を直接雇用する企業が無期転換ルールを通知することの義務化を含めた必要な措置を講ずるべきであること。  

  

処 遇 (賃金、昇進・昇格)

均 衡 処 遇

会社の人事政策に当たるもの

 モチベーションの観点などから、いわゆる正社員と多様な正社員の間の処遇の均衡を図ることが望ましいが、多様な正社員に対する昇進の上限やスピードの差異の設定は、企業の人事政策に当たる。
  

労使協議による納得性ある水準

 いわゆる正社員と比較した多様な正社員の賃金水準は、各種調査やヒアリングでは8~9割とする企業が多い。
 これは、両者の職務の範囲の相違が少ないこと、いわゆる正社員で転勤しない者の存在などによるものである。両者の待遇が均衡である水準の判断は難しいが、労使協議による納得性ある水準とするのが望ましい。

賃 金

 職務限定、勤務地限定、勤務時間限定(短時間正社員)のそれぞれについて、賃金水準への納得性、職務の難易度などの要素を考慮して、次のとおり整理されています。

職務限定正社員

〇 職務の範囲を狭く限定して、職務給または職務給の要素が強い賃金体系の構築
   ⇒ 職務の難易度に応じた賃金水準の設定が望ましい

   

勤務地限定正社員

〇 いわゆる正社員と職務内容が変わらず、既存の正社員に転勤しない者がいるとき
   ⇒ 賃金水準の差は大きくしない方が多様な正社員の納得が得られやすい
〇 いわゆる正社員が海外転勤などの負担が大きいとき
   ⇒ 賃金水準の差を一定程度広げた方がいわゆる正社員の納得が得られやすい
〇 賃金水準の差への納得性を高める方策
   ⇒ 同一の賃金テーブルの適用。併せて、転勤の有無等による係数の適用、転勤の可能性に対する手当支給等

  

勤務時間限定正社員(短時間正社員)

〇 同種の職務を行う比較可能なフルタイム勤務の正社員をベースに、所定労働時間に比例した額とすることが
  考えられる

所定外労働免除を限定内容するとき
   ⇒ いわゆる正社員と同一の賃金テーブルを適用したうえで、いわゆる正社員には所定外勤務の可能性に

     応じた手当を追加支給
  

昇進・昇格

職務の範囲や能力への影響が少ないとき

 勤務時間もしくは勤務地の限定による、経験可能な職務の範囲、習得可能な能力への影響が少ないときは、いわゆる正社員との間の昇進スピード、上限の差は小さく設定する方が望ましい。
  

多様な正社員からいわゆる正社員への再転換

 一時的に多様な正社員に転換した者がいわゆる正社員に再転換した場合に、その間もずっといわゆる正社員であった者と同格のポストに配置することが難しいときには、多様な正社員としての勤務実績や経験も適正に評価し、それにふさわしいポストに配置することが望ましい。  

  

転 換 制 度

非正規雇用の労働者から多様な正社員への転換

正規雇用の労働者に合った転換制度

 非正規雇用の労働者は、職務や勤務地が限定されることが多いと考えられることから、職務もしくは勤務地限定正社員への転換制度が考えられる。
   

社内制度化

 以下の点を考慮して、応募資格、要件、実施時期、転換後の職務、勤務地の範囲といった事項を明確して社内制度化すること。  

・対象者に対する転換の趣旨やその仕組みの周知による活用促進
・企業にとって無制限な転換を避けるこ

  

2段階の転換を可能とする仕組みの導入

 非正規雇用から多様な正社員を経て、いわゆる正社員へという2段階の転換を可能とする仕組みを導入すること
 その例としては、職務範囲拡大(※)などが一定レベルに達したときに、既存の正社員へ転換させる制度が考えられる。


 (※)有期契約時における更新ごと又は無期転換後のものを指す。
  

既存の正社員と多様な正社員の間の転換

セットで社内制度として導入

 いわゆる正社員から多様な正社員への転換と、多様な正社員からいわゆる正社員に再転換できる仕組みをセットで、そして、運用対応ではなく、要件、回数制限や実施時期などを定めて社内制度として導入するのが望ましい。
  

キャリアトラックの変更

 いわゆる正社員から多様な正社員に転換するときでも、職務限定による労働条件の差や獲得する能力の差が小さい場合もあるため、転換後直ちに「キャリアトラックの変更(※)」を行うのは必ずしも望ましいことではない。
  
 (※)職務の経験、能力開発、昇進・昇格のスピード・上限等に差を設けること。
  

転換として扱う必要がない場合

 育児・介護休業法に基づく所定外労働の制限の請求や、勤務時間短縮措置の申出に応じる場合には、これらの措置が一時的なもので事情が変われば元のフルタイム勤務に復帰することが前提であるため、あえて「転換」として扱う必要もないと考えられる 。

  

人材育成・ 職業能力評価

客観性を備えた能力評価の仕組みの整備

 円滑な転換やキャリア・アップを可能とするといった観点から、客観性を備えた能力評価の仕組みの整備は、その基盤の一つとなる重要な課題である。
  

能力開発機会の提供・支援

 個々の企業を超えた業種・職種共通の職業能力を対象に能力評価の「ものさし」を整備することにより、職務における職業能力の「見える化」を促進し、職業能力の向上のための能力開発機会を提供する必要がある。
 職業訓練機会を付与するとともに、中長期的キャリア形成のための専門的・実践的能力開発の支援が考えられる。

  

事業所閉鎖や職務の廃止等の場合の対応

整 理 解 雇

勤務地や職務の限定の明確化により直ちに整理解雇が有効となるわけではなく、整理解雇法理を否定する裁判例は
  ない。
解雇の有効性は、人事権の行使状況や労働者の期待などに応じて判断される傾向にある。
転勤や配置転換が可能な範囲に応じて、解雇回避努力や被解雇者選定の妥当性等の判断が異なる傾向にある。
勤務地限定、高度な専門性を伴わない職務限定は、整理解雇法理の判断に与える影響は小さく、解雇回避努力と
  して配置転換を求められることが多い傾向が見られる。
高度な専門性を伴う職務限定、他の職務と内容や処遇が明確に区別できる職務限定は、整理解雇法理の判断に一定
  の影響があり、配置転換ではなく退職金の上乗せや再就職支援でも解雇回避努力を行ったと認められる場合がある
紛争を未然に防止するため、転勤や配置転換の打診を可能な範囲で行い、それが難しい場合は代替 可能な方策を
  講じることが求められる。  

整理解雇法理(整理解雇の4要件)

 整理解雇は、不況や経営不振などを理由とする人員削減として行うものであり、次の4つの要素に照らしてその有効性が判断されます。

・人員削減の必要性 (企業経営上の十分な必要性の有無)
・解雇回避の努力  (配置転換、希望退職者募集など解雇以外の手段の事前実施の有無)

・人選の合理性   (対象者選定基準の客観性や合理性、その公正な運用)
・解雇手続の妥当性 (労働組合、労働者に対する説明など)

  

能力不足解雇

〇 能力不足を理由に直ちに解雇することが認められているわけではない。
〇 高度な専門性を伴わない職務限定では、改善の機会を与えるための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格などが
  必要とされる傾向がみられる。
〇 高度な専門性を伴う職務限定では、警告は必要とされるが、教育訓練、配置転換、降格などは必要とされない場合
  もみられる。

  

既存の正社員の働き方の見直し

〇 未だに勤務時間限定正社員の活用例が比較的少ないのは、長時間労働前提のいわゆる正社員からの職務の切り出しの
  難しさもあるので、その働き方の見直しを行うことが望ましい。
〇 勤務地、職務限定正社員を選択しやすくするため、転勤や配置転換の必要性の点検、その期間の見直しなどを行うことが
  考えられる。