70 多様な正社員導入の実務上の注意点について

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 多様な正社員とは、これまでのフルタイム勤務の正社員について、会社の裁量による職務や勤務地の変更、長時間労働(時間外・休日勤務)が幅広く行われていたのとは異なり、勤務時間、勤務地及び職務といった労働条件に限定を設けた正社員のことです。
 これらは、働く意欲と能力はあるものの、育児や介護といった家庭の事情などでフルタイムでの雇用に応じることができなかった方々にも受け入れ可能なものです。

 多様な正社員とは別に、最近注目されているジョブ型雇用(ジョブ型正社員)は、職務限定型の働き方であり、職務記述書などで職務とその内容が明確にされていることがその前提となります。国外での事例を見ると、勤務時間や勤務地の変更に限定があるケースが多いようです。

 その雇用管理上の留意事項について、2014(平成26)年に「多様な正社員の普及・拡大のための有識者懇談会報告書」(厚生労働省設置の有識者懇談会)で整理されていますので、今回はそれを見ていきます。
 以下の文中での「いわゆる正社員」とは、多様な正社員の区分を設ける前からあった勤務時間、勤務地、職務が無限定な正社員のことであり、既存の正社員と考えてください。
  

1.多様な正社員が活用されるケース

 勤務地を限定する「勤務地限定正社員」、職務内容を限定する「職務限定正社員」、他の正社員に比べて短時間勤務で処遇する「勤務時間限定正社員」の3つのカテゴリー別で活用されるケースを整理しています。
   

  

2.制度の設計・導入・運用に当たっての労使コミュニケーション

 労働者の納得性を得て円滑な運用を可能にするには、労働者に対する十分な情報提供と十分な協議が必要としたうえで、次の点に言及しています。

● 労働組合がない場合でも、労使委員会の実施や過半数代表との協議を行うこと
● 管理職のマネジメント能力の向上を図るため、各職場の実情に即した検討が求められること
  

3.労働者に対する限定の内容の明示

 勤務地などの限定の内容や、当面だけなのか将来にわたるのかを明示することで、労働者は将来のキャリアの見通しがつきやすくなり、企業も人材確保でのメリットがある。
 加えて、その内容を書面で確認することが望ましい。(労働契約法第4条)

 内容の明示と確認については、2019(令和元)年5月に規制改革推進会議から「ジョブ型正社員(勤務地限定正社員 、職務限定正社員等)の雇用ルール明確化に関する意見」として次の意見が出されています。

➤勤務地(転勤の有無を含む。)、職務、勤務時間等の労働条件について予測可能性を高められるよう個々の労働者と事業者との間の書面(電子書面を含む)による確認を義務付け、必要な法令の見直しを行うべきこと。

➤労働条件を確認する手段として、検討を行うべき事項としては、
 ①労働契約締結及び変更時における限定の内容の書面による確認を義務化
 ②勤務地変更(転勤)の有無、転勤の場合の条件について労働契約締結及び変更時における書面
  での明示を義務化
 ③勤務地の変更(転勤)の予定、地域限定での正社員の使用がある場合にその旨をあらかじめ就
  業規則に記載すること
 の3つがあること。

➤無期転換ルールが周知されるよう、無期転換申込権を保有する労働者に対し、対象となる労働者を直接雇用する企業が無期転換ルールを通知することの義務化を含めた必要な措置を講ずるべきであること。
  

4.処 遇(賃金、昇進 ・昇格)

■均衡処遇

➤モチベーションの観点などから、いわゆる正社員と多様な正社員の間の処遇の均衡を図ることが望ましいが、多様な正社員に対する昇進の上限やスピードの差異の設定は、企業の人事政策に当たる。

➤いわゆる正社員と比較した多様な正社員の賃金水準は、各種調査やヒアリングでは9割~8割とする企業が多い。
 これは、両者の職務の範囲の相違が少ないこと、いわゆる正社員で転勤しない者の存在などによるものである。両者の待遇が均衡である水準の判断は難しいが、労使協議による納得性ある水準とするのが望ましい。
  

■賃 金

 勤務地限定正社員、職務限定正社員、勤務時間限定正社員」の3つのカテゴリー別で、賃金水準への納得性、職務の難易度などの要素を考慮して整理しています。  
 

  

■昇進 ・ 昇格

➤勤務時間もしくは勤務地の限定による、経験可能な職務の範囲、習得可能な能力への影響が少ないときは、いわゆる正社員との間の昇進スピード、上限の差は小さく設定する方が望ましい。

➤一時的に多様な正社員に転換した者がいわゆる正社員に再転換した場合に、その間もずっといわゆる正社員であった者と同格のポストに配置することが難しい場合には、多様な正社員としての勤務実績や経験も適正に評価し、それにふさわしいポストに配置することが望ましい。
 

5.転 換 制 度

■非正規雇用の労働者から多様な正社員への転換

➤非正規雇用の労働者は、職務や勤務地が限定されることが多いと考えられることから、職務もしくは勤務地限定正社員への転換制度が考えられる。

➤対象者に対する転換の趣旨やその仕組みを周知による活用促進、企業にとって無制限な転換を避けるために、応募資格、要件、実施時期、転換後の職務、勤務地の範囲といった事項を明確して社内制度化すること。

➤非正規雇用から多様な正社員を経て、いわゆる正社員へという2段階の転換を可能とする仕組みの導入すること。
 その例としては、有期契約時における更新ごとの職務範囲の拡大、無期転換後の職務範囲拡大やレベル向上が一定レベルに達したときに既存の正社員への転換させる制度が考えられる。
  

■既存の正社員と多様な正社員の間の転換

➤いわゆる正社員から多様な正社員への転換に加えて、多様な正社員からいわゆる正社員に再転換できる仕組みをセットで運用対応ではなく、転換の要件、回数制限、実施時期などを定めて社内制度として導入することが望ましい。

➤いわゆる正社員から多様な正社員に転換するときでも、職務限定による労働条件の差や獲得する能力の差が小さい場合もあるため、転換後直ちに「キャリアトラックの変更(※)」を行うことは必ずしも望ましいものではない。
  (※)職務の経験、能力開発、昇進・昇格のスピード・上限等に差を設けること。

➤育児・介護休業法に基づく所定外労働の制限の請求や、勤務時間短縮措置の申出に応じる場合には、これらの措置が一時的なもので事情が変われば元のフルタイム勤務への復帰が前提であるため、あえて「転換」として扱う必要もないと考えられる 。
  

6.人材育成・ 職業能力評価

 職業訓練機会を付与するとともに、中長期的キャリア形成にための専門的・実践的な能力開発への支援が考えられる。
  

7.事業所閉鎖や職務の廃止等の場合の対応

■整理解雇

➤勤務地や職務の限定の明確化により直ちに整理解雇が有効となるわけではなく、整理解雇法理を否定する裁判例はない。

➤解雇の有効性は、人事権の行使状況や労働者の期待などに応じて判断される傾向にある。

➤転勤や配置転換が可能な範囲に応じて、解雇回避努力や被解雇者選定の妥当性等の判断が異なる傾向にある。

➤勤務地限定、高度な専門性を伴わない職務限定は、整理解雇法理の判断に与える影響は小さく、解雇回避努力として配置転換を求められることが多い傾向が見られる。

➤高度な専門性を伴う職務限定、他の職務と内容や処遇が明確に区別できる職務限定は、整理解雇法理の判断に一定の影響があり、配置転換ではなく退職金の上乗せや再就職支援でも解雇回避努力を行ったと認められる場合がある。

➤紛争を未然に防止するため、転勤や配置転換の打診を可能な範囲で行い、それが難しい場合は代替可能な方策を講じることが求められる。

能力不足解雇

➤能力不足を理由に直ちに解雇することが認められているわけではない。

➤高度な専門性を伴わない職務限定は、改善の機会を与えるための警告に加え、教育訓練、配置転換、降格などが必要とされる傾向がみられる。

➤高度な専門性を伴う職務限定は、警告は必要とされるが、教育訓練、配置転換、降格などは必要とされない場合もみられる。
  

  • 整理解雇法理

  整理解雇は、不況や経営不振などを理由とする人員削減として行うものであり、次の4つの要素に照らし
 その有効性が判断されます。
  ・人員削減の必要性 (企業経営上の十分な必要性の有無)
  ・解雇回避の努力  (配置転換、希望退職者募集といった解雇以外の手段を事前に実施していたか)
  ・人選の合理性   (対象者選定基準の客観性や合理性、その公正な運用)
  ・解雇手続の妥当性 (労働組合、労働者に対する説明など)
  

8.既存の正社員の働き方の見直し

➤未だに勤務時間限定正社員の活用例が比較的少ないのは、長時間労働前提のいわゆる正社員からの職務の切り出しの難しさもあるので、その働き方の見直しを行うことが望ましい。

➤勤務地、職務限定正社員を選択しやすくするため、転勤や配置転換の必要性の点検、その期間の見直しなどを行うことが考えられる。