現在、複数就業者(副業・兼業)の労災保険給付額は、労働災害(疾病の発症を含む)が発生した事業所(本業先、副業・兼業先)の賃金のみで計算します。これは、労災保険の制度が、事業場ごとの業務に着目して、そこでの業務にもともとある危険性が原因となって労働災害が発生した時に保険給付を行うしくみとなっているためです。

ここでの「複数就業者の範囲」は次のとおりです。

  • 同時期に複数の事業と労働契約関係にある者
  • 一つもしくは複数の事業と労働契約関係にあり、かつ他の就業について特別加入している者
  • 複数の就業について特別加入している者

 特別加入者については、労働基準法上の労働者でなくても業務の実態、災害の発生状況などから労働者に準じて労災保険により保護するにふさわしい者について認めるという特別加入制度の趣旨を考慮して複数就業者の範囲に含めています。

1.給付の見直しについて

 複数就業者の労働災害(疾病の発症を含む)での休業補償給付などの給付額は、非災害発生事業場の賃金額も合算して決定します。これは、被災労働者の稼ぐ能力や遺族の被扶養利益が失われたことへの補填を行う観点によるものです。

 自動変更対象額や年齢階層別の最高・最低限度額は、現行の取り扱いを継続します。

 複数就業者が被災した場合に、いずれかの就業先で有給休暇を取得したときは、その他の就業先での休業は休業(補償)給付の対象となります。また、いずれかの就業先で部分休業したときは、現行の部分休業の取扱いに準じて給付します。

2.特別支給金について

 労災保険給付に上乗せする形で、社会復帰促進等事業として行われる特別支給金のうち、賃金や特別給与(賞与)の額により算定するものは、非災害発生事業場の賃金や特別給与の額も合算した上で給付額を算定します。算定基礎年額及び算定基礎日額の上限額は、現行の取扱いを継続します。

3.それぞれの就業先での負荷のみでは業務と疾病との間に因果関係が認められない場合について

 複数就業先での業務上の負荷をあわせて評価することで疾病との間に因果関係が認められる場合には、労災保険給付を行います(現在は、労災保険給付は行わない)。なお、労災認定の基準は労働者への過重負荷について定めた現行の枠組みにより対応します。

4.通勤災害について

 複数就業先の賃金を合算して給付額を算定します。これまでは、自宅を起終点とするものは最初もしくは最後の就業先、複数の就業先の間の移動はその移動先の賃金のみで算定していました。

5.事業主の労働基準法に基づく災害補償責任

 事故による負傷又は一つの就業先での負荷による疾病の場合は、非災害発生事業場の事業主は責任を負いません。複数就業先での業務上の負荷をあわせて評価することで疾病との間に因果関係が認められる場合は、それぞれの就業先の負荷だけでは因果関係が認められないため、いずれの就業先の事業主も責任を負いません。

6.保険料負担について

 非災害発生事業場での賃金による保険給付費用は、全業種一律の負担とします。(石綿健康被害救済のための一般拠出金と同じく全業種同一の料率を適用)

 非災害発生事業場での賃金に基づく保険給付額は、①非災害発生事業所が属する業種の保険料の算定基礎、②非災害発生事業所のメリット収益率の算定基礎のいずれにも含めません。なお、疾病について、複数就業先の業務上の負荷をあわせて評価して労災認定する場合のすべての就業先の保険給付額も同じ扱いになります。

 この制度の見直しに必要となる労働者災害補償保険法、労働保険の保険料の徴収等に関する法律の改正案は次期通常国会に提出予定です。施行時期は、公布日から6か月以内の政令で定める日で令和2年4月1日の施行はなくなりましたが、具体的な日付はまだ見えていません。