前回の投稿55(「労使協定方式」での派遣労働者の待遇決定について)に関連して、労使協定で定める賃金決定方法について、今回は基本給・賞与・手当等、通勤手当を、次回は退職金、協定締結の注意点をそれぞれ見ていきます。

 まず、「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金水準」(いわゆる一般賃金)とは、① 派遣先の事業所などがある地域で就労する、②派遣労働者と同種の業務に従事する一般の労働者 (無期雇用のフルタイム労働者)のうち、③その派遣労働者と同程度の能力及び経験を有する者の平均的な賃金額のことです。

 ここでいう一般賃金の範囲は、①基本給・賞与・手当等、②通勤手当、③退職金となります。 そして、この一般賃金と個々の協定派遣労働者に支払う賃金を比較して、一般賃金と同額もしくは上回るようにしなければなりません。

 一般賃金の算出に必要な統計データや算出の考え方は、毎年6~7月に厚生労働省が局長通達として公開します。ちなみに、令和2年度分として公開済みの局長通達名は、『令和2年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について』とかなり長いものです。

■基本給、賞与、手当等

 各地域における一般基本給・賞与等(基本給・賞与・手当等)は、次の計算式により算出します。

 「職種別の基準値」は全国計として、①業務(職種)別、②能力及び経験の程度(経験年数)別で明確に区分され時給換算のうえ、「賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金」「職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額」の2つのパターンで次のような表にまとめられています。

 また、計算式中の「職種別の基準値(0年)×能力・経験調整指数」について実務上では、次の2表の「基準値に能力・経験調整指数を乗じた値」を使います。「基準値に能力・経験調整指数を乗じた値」(全国計)に該当する地域の「地域指数」を乗じることで、各地域における一般基本給・賞与等が算出されます。

 地域指数は、全国計を 100として地域の物価水準などを反映した指数であり、都道府県別、公共職業安定所の管轄地域別の2つのパターンが公開されています。

 このようにして算出した地域別の一般基本給・賞与等と「個々の派遣労働者の賃金」を比較して、同額もしくは派遣労働者の賃金の方が多い場合は、賃金決定として問題はありません。(下図のイメージ)

 労使協定方式に関するQ&Aでの回答をいくつか見ていきます。

  • 一般賃金の対象外となる手当には、宿日直手当が含まれる。
  • 協定対象となる派遣労働者の職種が、賃金構造基本統計調査、職業安定業務統計のデータのいずれにもある場合には、それぞれの統計における職種の内容を確認して、労使で十分に議論し、いずれの統計の職種によるかを決定することが求められる。
  • 協定対象派遣労働者の恣意的な賃金引き下げなどを目的として、職種ごとに2つの統計を使い分けることは労使協定方式の趣旨に照らして適切ではなく、認められないこと。
  • 能力・経験調整指数(ひいては基準値に能力・経験調整指数を乗じた値も)として示されている1、2、3、5、10及び20の各年については、派遣労働者の勤続年数を示すものではない。協定対象派遣労働者の能力及び経験が、一般の労働者の勤続何年目相当に該当するかを考慮して適切なものを選択すること。
  • 能力・経験調整指数(ひいては基準値に能力・経験調整指数を乗じた値も)については、原則は公開済みの 1、2、3、5、10及び20の各年から選ぶこと。ただし、派遣労働者の能力及び経験がいずれの年数にも当てはまらない場合には、労使協議を十分に行って、その当てはまらない年数に相当する額を算出することも差し支えない。
  • 複数の地域に派遣する場合、その複数の地域の地域指数の平均値を使った賃金決定はできない。派遣先の事業所等ごとに その所在地の地域指数を乗じて算出した一般賃金と同額以上になるよう賃金決定をすること。
  • 都道府県、公共職業安定所管轄地域のいずれの地域指数を選択するかは、基本的には労使の選択によるものである。しかし、協定対象派遣労働者の賃金引き下げなどを目的にして恣意的に地域指数を使いわけることは、労使協定制度の趣旨に照らして適切ではなく認められない。また、一つの労使協定で指数の使い分けをするときは、その理由を労使協定に記載すること。
  • 一般賃金のうち賞与・手当等は、平均額で代替できるが、その平均額はその賞与・手当等を支給していない 協定対象派遣労働者も含めて算出すること。

■通勤手当

 一般賃金のうち通勤手当(一般通勤手当)と「個々の協定対象派遣労働者の通勤手当」の比較方法については、次の①、②のいずれかもしくは両方を労使協議により選択します。ここでいう一般通勤手当は労働時間1時間あたり72円に設定されています。

① 実費支給により同等以上を確保する場合

 派遣就業の場所と居住地の通勤距離や通勤方法に応じた実費を支給するときは、一般通勤手当(時間あたり72円)と同額以上とすること。実費支給の上限額を設定するときは、その上限額を協定対象派遣労働者の平均的な所定内労働時間で除した額(労働時間1時間あたりの通勤手当上限額)が一般通勤手当の額以上になるようにすること。一般通勤手当額未満のときは、②の方法(定額支給)を選択しなければなりません。

② 一般の労働者の通勤手当に相当する額と「同等以上」を確保する場合(定額支給)

 定額支給する通勤手当額を、協定対象派遣労働者の所定内労働時間で除した1時間当たりの通勤手当額が一般通勤手当額以上となるようにすること。

※厚生労働省本省ウェブサイトで労使協定のイメージ(令和2年1月14日版)が公表されていますので、リンクを置いておきます。