56 労使協定方式での派遣労働者の賃金決定方法について【令和4年度版】

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 労使協定方式とは、派遣労働者の賃金を「一般賃金」と同等以上で決定するなどの要件を満たす労使協定を派遣元で締結して、その協定の内容に基づいて待遇を決定するものです。
 ここでいう「待遇」には、基本給、賞与、手当などすべての賃金、福利厚生施設、教育訓練などすべての待遇が含まれています。

1.一般賃金の考え方

 協定の対象である派遣労働者の賃金と比較する「一般賃金の額」は、次の4つすべてにあてはまる者の平均的な賃金額です。また、この一般賃金のことを、「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金水準」ともいいます。
    

 

 
一般賃金の範囲は、次の図のとおり、基本給・賞与・手当等、通勤手当、退職金の3つまでです。
 

  

一般賃金と派遣労働者の賃金の比較方法

 比較方法は、基本給・賞与・手当等、通勤手当、退職金の3つについて、次のいずれかになります。

〇 それぞれ個別に比較
〇 全部または一部を合算した額での比較

基本給・賞与・手当等、通勤手当、退職金の全部又は一部を合算する場合の取扱い

 派遣労働者の賃金の3つの要素、基本給・賞与・手当等、通勤手当、退職金の全部又は一部を合算した額を用いて、一般賃金・手当等との比較を行う場合に認められている組み合わせは、下表の3つのパターンのみです。

  

一般賃金の算出に必要なデータや考え方

 これらは、毎年7月頃に厚生労働省が局長通達として公開しますが、その中には次の4つの資料があります。

〇 職種別平均賃金(賃金構造金本統計調査によるもので時給換算)
〇 一般基本給・賞与等の額 (職業安定業務統計の求人賃金を基準値としたもので時給換算)
〇 地域指数 (職業安定業務統計によるもの)
〇 退職手当制度の資料

 令和4年度分として令和3年8月6日付で公開済みの局長通達の正式名称は、
「令和4年度の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項第2号イに定める「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」」等について」です。
  

2.基本給、賞与、手当等

 各地域における一般基本給・賞与等(基本給・賞与・手当等)は、次の計算式で算出します。
職種別の基準値(0年)、基準値に能力・経験調整指数を乗じた値はいずれも全国計のものなので、該当する地域の地域指数を乗じて補正する必要があります。

     

職種別の基準値

 職種別に、能力及び経験の程度(経験年数)で区分され時給換算された額が、
 〇 賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金
 〇 職業安定業務統計の求人賃金を基準値とした一般基本給・賞与等の額
の2つの政府統計を利用してまとめられています。(下表は令和4年度適用分の一部です)

   

 計算式では、「職種別の基準値(0年)×能力・経験調整指数」としていますが、実務上は、上の2表の「基準値に能力・経験調整指数を乗じた値」の方を使います

職種別の基準値、統計の選択・使い分け Q&A

〇 この基準値の区分である1、2、3、5、10及び20の各年数の位置づけ
  ⇒ 派遣労働者の勤続年数を示すものではない。
    協定対象派遣労働者の能力及び経験が、一般の労働者の勤続何年目相当に該当するかを   
    考慮して適切なものを選択すること

〇 協定対象派遣労働者の能力及び経験がいずれの年数にも当てはまらない場合
  ⇒ 労使協議を十分に行って、その当てはまらない年数に相当する額を算出して差し支えない
    その算出額は、その当てはまらない年数の直近下位に相当する年数の額を超えるもので
    なければならない。

(対応例)
 賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(上の別添1)を用いた、機械技術者(表中では、1073 機械技術者)の派遣労働者についての賃金決定で、その能力及び経験を、一般の労働者の勤続11年目に該当するものとした場合には、直近下位である10年の額1,927円を超える額を用いること。

〇 協定対象派遣労働者の職種が、2つの統計のいずれにもある場合
  ⇒ それぞれの統計における職種の具体的な内容を確認した上で、労使で十分に議論して
    いずれの統計の職種によるかを決定すること

〇 派遣労働者の賃金引き下げなどを目的として、職種ごとに2つの統計を使い分けること
   労使協定方式の趣旨に照らして適切ではなく、認められない

〇 一つの労使協定で2つの統計の使い分けをするとき
   その理由を労使協定に記載すること

     

地 域 指 数

 全国計を100として地域の物価水準などを反映した指数で、都道府県別、公共職業安定所の管轄地域別の2種類が公開されています。(下表は令和4年度適用分の一部です。)

 算出方法について、今回の令和4年度版から、過去3年度分(平成30年度~令和2年度)における各年度の賃金額の平均から算出する方法に変更されています。
 令和3年度版までは、単年度分(令和3年度版の場合は、局長通達の前年度である令和元年度)の賃金額から算出する方法でしたが、コロナ禍のような突発的な変化があることを考慮して、3年平均に改められました。


 

地域指数関連 Q&A

〇 いずれの地域指数を選択するか
  ⇒ 基本的には労使の選択によるものである。

〇 協定対象派遣労働者の賃金引き下げなど目的で、恣意的に地域指数を使いわけること
  ⇒ 労使協定制度の趣旨に照らして適切ではなく認められない。

〇 一つの労使協定で指数の使い分けをするとき
  ⇒ その理由を労使協定に記載すること。

〇 協定対象派遣労働者を複数の地域に派遣するとき
   その複数の地域の地域指数の平均値を使った賃金決定はできない。
    派遣先の事業所等ごとに その所在地の地域指数を乗じて算出した一般賃金と同額以上に
    なるよう賃金決定をすること。

    
地域別の一般基本給・賞与等と、派遣労働者の基本給・諸手当・賞与額の比較イメージ



※上図の個々の派遣労働者の賃金のうち賞与・諸手当は、平均額で代替できますが、
その額は、賞与・諸手当等を支給していない派遣労働者も含めて算出します。
     

     

3.通 勤 手 当

 令和4年度の「一般通勤手当」(一般賃金のうち通勤手当)は、労働時間1時間あたり「71円」です。
 この一般通勤手当と、協定対象の派遣労働者それぞれの通勤手当の比較方法は、労使協議の上、 実費支給、定額支給の2つの方法のいずれかの使用、もしくは両方の使用を選択します。

   

実 費 支 給

 派遣就業の場所と居住地の通勤距離や通勤方法に応じた実費を支給する方法で、その額は一般通勤手当(時間あたり71円)と同額以上とする必要があります。

〇 実費支給の上限額を設定するとき
  ⇒ 労働時間1時間あたりの通勤手当上限額(※)が一般通勤手当の額以上になるようにすること

(※)通勤手当の上限額を協定対象派遣労働者の平均的な所定内労働時間で除した額

〇 実費支給として算出した額(時給換算)が一般通勤手当額未満のとき
  ⇒ 定額支給を選択しなければならない、(実費支給は使えない)

   

定 額 支 給

 協定対象の派遣労働者の1時間当たり通勤手当額を、一般通勤手当の額以上にする必要があります。
 派遣労働者の1時間当たり通勤手当額は、定額支給の通勤手当を、その派遣労働者の所定内労働時間で除して算出します。
 

     

4.退 職 金

 退職金の決定方法は、①退職金制度の方法、②退職金前払いの方法、③中小企業退職金共済制度等への加入の方法の3つです。
 その選択方法には自由度があり、労働者の区分ごとに①~③をそれぞれ選択する内容の労使協定を結ぶことや、一人の協定対象の派遣労働者に②と③を併用することも可能です。

  

退 職 金 制 度(退職手当制度で比較する場合)

 まず、退職手当制度の指標となる項目について、国の局長通達にある複数の調査結果から任意のものを選択して、それを一般の労働者の退職手当制度であるとみなします。
 そして、そのみなした退職手当制度を各社の認定対象派遣労働者の退職制手当制度と比較する方法です。

 局長通達で例示されている調査結果の概要は次のとおりです。


   

退 職 金 前 払 い(一般退職金との比較)

 この方法では、派遣労働者の退職手当相当額を時給換算して、その派遣労働者の賃金に上乗せして支給する制度(退職金前払い制度)を導入します。
 比較するのは、賃金に上乗せする退職金の額(時給換算)と一般退職金です。

〇 一般退職金の算出方法
  ⇒ 一般基本給・賞与等に定率6%(※)を乗じて算出します。

(※)労働者の現金給与額に占める退職給付等の費用の割合

中小企業退職金共済制度等への加入

 協定対象の派遣労働者について、中小企業退職金共済制度等に加入する場合です。
 比較するのは、 派遣労働者の共済制度等の掛金額と、②の一般退職金です。

〇 中小企業退職金共済制度等の「等」 にあたるもの

確定給付企業年金
確定拠出年金
商工会議所の特定退職金共済制度
中小事業主掛金納付制度掛金納付制度(iDeCo+)
・派遣元事業主が独自に設けている企業年金制度 な

退職金関連 Q&A

企業型の確定拠出年金のマッチング拠出の取り扱い
  加入者本人が上乗せして負担する掛金は、事業主が負担する費用に該当しないため、
    認められない。

     

5.協定締結の注意点 (局長通達本文、労使協定方式のQ&Aから

イ 賃金引き下げの可否

〇 現に協定対象派遣労働者の賃金の額が一般賃金の額を上回っていることを理由に、
  賃金を引き下げること
   ⇒ 派遣労働者の待遇改善という改正労働者派遣法の目的に照らして問題


〇 通勤手当等を支給する一方で、基本給を引き下げ、派遣労働者の賃金総額の実質的
  引き下げを図ること
   前問と同様の理由で問題

 

ロ 待遇決定方式の変更

〇 派遣先の希望などにより、個別に、協定対象派遣労働者の待遇決定方式を派遣先均等
  ・均衡方式に変更すること
   派遣労働者の長期的なキャリア形成に配慮した雇用管理を行うという労使協定

     方式の目的からして適当ではない。
 

ハ 労使協定の記載事項

〇 労使協定には、派遣労働者の賃金の額のほか、その比較対象となる一般賃金の額を記
  載する必要がある。

労使協定には具体的な内容を定めず、就業規則、賃金規程等によることとする旨を定
  めても差し支えない。ただし、その場合には、事業報告書に該当する就業規則、賃金
  規程等も労使協定本体と併せて添付しなければならない。
 

ニ 一般賃金変更の際の
  対応

〇 労使協定の有効期間中に、一般賃金の額が変わったときの取扱い
   ⇒ 派遣労働者の賃金額が

     ・一般賃金額未満のときは、労使協定を締結し直す必要がある。
     ・一般賃金額以上のときは、同額以上の額であることを確認した旨の書面を

      労使協定に添付すればよい。
 

ホ 職種の選択関係事項

一般基本給・賞与等の基準値を決定するのに必要な職種の選択にあたって参照する
  ものは、次の2つの資料。

   ・職種について解説している「賃金構造基本統計調査の「役職及び職種解説」」
   ・「第4回改訂 厚生労働省編職業分類職業分類表改訂の経緯とその内容」
                  (独立行政法人 労働政策研究・研修機構)

 

へ 退 職 金 関 係 事 項

中小企業退職金共済制度等への加入の方法を選択する場合
   ⇒ 協定対象派遣労働者が中小企業退職金共済制度等に加入する旨を定めること

  

6.独自統計等の利用

  一般基本給・賞与等、一般通勤手当及び一般退職金について、局長通知に示す統計以外の民間統計(独自統計等)を用いることは要件を満たせば可能です。
 独自統計等を用いる場合は、その理由を労使協定に記載します。
   

▼ 厚生労働省本省HPで労使協定のイメージ(令和4年3月2日版)が公表されています。   

  

【この投稿の執筆者】
  
 札幌・新道東社労士オフィス代表
    特定社会保険労務士 塚田 秀和

代表 塚田秀和