54 健康福祉確保措置について考える

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 令和2年4月から中小企業にも適用されている時間外労働の上限規制に関して特別条項付きの36協定で定める事項とされ、協定届にも内容の記載が求められたのが健康福祉確保措置(限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置)です。
 関連する指針に列挙された9つの措置項目の内容、手続きの解説は、今のところ改正労働基準法に関するQ&A4問ですが、今回は、筆者の私見も交えてその内容を見ていきます。
  

労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること
                        (医師による面接指導)

 現在、面接指導の対象となるのは、「時間外・休日労働時間が1月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者」であり、その対象となる労働者が申出ることで面接指導が実施されます。(労働安全衛生法第66条の8第1項、労働安全衛生規則第52条の2及び第52条の3)
 確保措置でいう「医師による面接指導」は、前述の基準に該当しない者のうち事業所(企業)が独自に定める基準(一定時間)を超えた労働者に対して行うものをいいます。具体的には、面接対象者の基準を1月当たり45時間超80時間以下のうち任意の時間数まで事業所独自の基準として引き下げる場合があると見ています。
  

労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間(午後10時から午前5時)において
  労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること(深夜業の回数制限)

 この項目は、改正労働基準法に関するQ&A(Q2-12)で取り上げられています。その回答では、目安となる回数について、労働安全衛生法第66条の2の自発的健康診断の要件である「自発的健康診断を受けた日前6か月の深夜業の月平均が4回以上」を参考とすることが考えられるとしています。自発的健康診断とは、深夜業に従事する労働者が法定の健康診断(6か月に1回)に加えて自発的に受診する健康診断のことです。
 また回答では加えて、この制限の対象に所定労働時間内の深夜業(交代制勤務など)の回数制限も含まれること。その場合には、事業場の実情に合わせて深夜業の回数制限以外の健康確保措置を講ずることが考えられるとしています 。
 

終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること

 この項目は、改正労働基準法に関するQ&A(Q2-13)で取りあげられています。そこでは、「休息時間」を使用者の拘束を受けない時間と定義したうえで、休息時間の長さを含めた具体的な取り扱いは、各事業場の業務の実態等を踏まえて協定すべきとしています。
 この休息時間とは、労働時間等設定改善法で事業主の努力義務とされた「勤務間インターバル」のことであり、9時間以上の休息時間の新規導入、適用拡大などに加えて一定の取組を行った事業主に対する助成金も設定されています。
  

労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与
  すること

 代償休日(いわゆる代休)は、休日労働、長時間の時間外労働などが行われた場合に、その代償として以後の特定の労働日を休みとするものです。これは、休日労働実施後に決定して行うものであり、振替休日(休日労働の実施前に行う休日の振り替え)と異なり、該当する休日労働分の割増賃金を支払う必要があります。
 特別な休暇とは、特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度で、その目的や取得形態を労使協議により任意で設定できる法定外休暇(リフレッシュ休暇など)のことです。
  

労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること

 法定の健康診断、例えば、年1回の一般健康診断(深夜業などの特定業務従事者は6か月に1回)などに加えて、長時間勤務者を対象とした事業所(企業)独自の健康診断を行うことと見ています。
  

年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を
  促進すること

 ここでの取得促進の施策は、事前に労使協議を行い協定で定める必要があり、年度途中の社長発案で任意に実施した取得促進キャンペーンなどは該当しないと見ています。また、促進の効果を上げるため、そして効果の具体的検証と改善のためにも、具体的な取り組み手段などを協定しておく方が望ましいと見ています。
  

心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること

 この項目は、改正労働基準法に関するQ&A(Q2-37)で取り上げられています。その回答によれば、窓口を設置することで、法律上の義務は果たしたことになります。また、窓口の設置について労働者へ十分に周知します。
 相談窓口に関して記録を取って保存する事項とされたのは、
  ・窓口を設置してその旨を労働者に周知したこと
  ・当該 36 協定の有効期間中に受け付けた相談件数に関すること の2つです。

 Q&Aでは「受け付けた相談件数に関すること」を記録するとしていますが、相談があれば、何らかの対応が必要か否かの検討が続きますから、実務上はその後の対応(問題はなかったのであればその旨)も記録し保存する方が良いと考えます。また、相談件数がゼロであればその旨を記録します。
 そして、Q&Aでは、窓口の具体的な内容や取組み例は示されていませんし、既存の他の相談窓口と兼ねて設置することが禁止されている訳でもありません。実施へのハードルは比較的低い項目であると見ていますが、それだからこそ「対象者はいるのに窓口利用はゼロ続き」とならないように、心理的な負担なく利用できるような環境づくり、利用促進のための定期的な周知を他の項目以上に意識して行なう必要があると考えます。
  

労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に
  配置転換をすること

 時間外労働の原因の抜本的な除去につながり、事業主の安全(健康)配慮義務の履行としても主張しやすい面はありますが、中小企業にとっては実施へのハードルが高い項目と見ています。
  

必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による
  保健指導を受けさせること

 ①での面接指導以外の産業医等からの助言・指導などの援助を指していると見ています。ただ、援助申出の方法、事前の産業医との時間外労働状況に関する情報の共有、産業医の援助と関連して他の措置が必要となった場合の対応などの制度設計をしっかりしておく必要があると見ています。

 

36協定届でいう「⑩ その他」

 指針において、「労使当事者が限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置について、次に掲げるもの(上記①~⑨のこと)のうちから協定することが望ましいことに留意しなければならない」とされていることから、指針で列挙された項目以外での企業独自の取組を考慮して36協定届であえて設けた項目と見ています。その具体例は指針やQ&Aという形では示されておらず、36協定の記載例で⑩の具体的内容として「職場での時短対策会議の開催」が例示されている程度です。
 以上の措置の実施については、改正労働基準法に関するQ&A(Q2-36)で、原則として限度時間を超えるたびに講じる必要があるとしています。また、措置の実施時期は、措置の内容によって異なるとしながらも、例示として、医師による面接指導は、1か月の時間外労働時間を算定した日(賃金締切日など)からおおむね1か月以内の実施が望ましいとしています。
 最後になりますが、健康福祉確保措置の実施状況に関する記録は、当該36協定の有効期間中及び当該有効期間の満了後3年間保存しなければならないとされています。