49 賃金等請求権の消滅時効について

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 民法の一部改正を受けて検討が進められていた「賃金等請求権の消滅時効の在り方」について、2019(令和元)年12月27日に労働政策審議会長から厚生労働大臣に建議がなされ、関連する法改正が2020(令和2)年4月1日に施行されました。
   

賃金請求権

 賃金請求権の消滅時効(労働者が過去の未払い賃金等を企業に請求できる期間)は、原則5年、当分の間3年(現行2年)としています。そして、施行日(2020年4月1日)以降に支払期日(賃金支払日)が到来した賃金債権から3年の消滅

 当分の間3年の措置は、改正後の民法における消滅時効の規定「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間」に合わせて一気に現行の倍以上の5年とした場合には、労使の権利関係が不安定化するおそれがあることなどを考慮したもので、労働関係に関する重要な記録(労働者名簿、賃金台帳など)の法定の保存期間3年に合わせた形となっています。

 ちなみに、賃金と一口に言っても、労働基準法で関係してくる規定は8つあります。

 〇 金品の返還(23条)
    労働者の退職または死亡の際の未払い賃金の支払い(金品の返還については、これまでどおり2年の消滅時効)

 〇 賃金の支払(24条)
    賃金は、通貨で、直接労働者にその全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うこと

 〇 非常時払(25条)
    労働者が出産、疾病、災害等の非常時の費用に充てるために請求したときに、すでに勤務した日の賃金で支払日前
   のものを支払うこと

 〇 休業手当(26条)
    使用者の責に帰すべき事由で休業させた場合に支払う、平均賃金の100分の60以上の額の手当

 〇 出来高払制の保障給(27条)
    出来高払制その他の請負制により働く者について、出来高等が少ない場合でも労働時間に応じて一定額の賃金を支
   払うこと

 〇 時間外・休日労働等に対する割増賃金(37条)
    法定労働時間を超えて行った労働、法定休日や深夜に行った労働の時間数に応じて支払う割増賃金

 〇 年次有給休暇中の賃金(39条9項)
    年次有給休暇を取得した日または時間に応じてあらかじめ定めた賃金(所定労働時間勤務時の賃金など)を支払う
   か、賃金計算上勤務したものとみなすこと

 〇 未成年者の賃金(59条)

    未成年者は独立して賃金を請求する権利を持ち、親権者または後見人が代理で受領するのは認められないこと
  

退職手当の請求権

 従来どおり5年の消滅時効をを維持。
   

年次有給休暇請求権・災害補償請求権

 年次有給休暇請求権、災害補償請求権については、これまでどおり2年の消滅時効を維持します。

 これは、そもそも民法の規定にかかわらず、労働基準法で2年としたことに加え、

 〇 年次有給休暇では、消滅時効期間を長くすると、労働者の健康確保及び心身の疲労回復等の制度趣旨にそぐわないこと
 〇 災害補償の仕組みでは、早期に権利を確定させて労働者救済を図ることが制度の本質的な要請であること
といった点を考慮したものです。

 

その他の短期間の定めをしている請求権

 その他の短期間の定めをしている次の請求権については、労働者の早期の権利確定を念頭において定めたものであることから、従来とおりの期間を維持しています。

 〇 帰郷旅費(契約解除の日から14日以内)

    労働契約締結時に明示された労働条件が事実と異なることを理由に労働者が労働契約を解除した時に、使用者が
   帰郷に必要な旅費を負担するもの。

 〇 退職時の証明(労働者が請求した場合、遅滞なく交付)

    退職する労働者が使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由(解雇の場合は解雇理由を
   含む)についての証明書を使用者に請求するもの。

 〇 金品の返還(権利者が請求した場合、7日以内に返還)
    労働者の死亡または退職に際して請求があった時に、使用者は7日以内に労働者の金品を返還しなけらなならな

   いとするもの。(未払いの賃金については、賃金請求権として原則5年、当面3年)
 

付加金の請求

 裁判所が支払いを命じる「付加金」(114条)の請求についても、賃金請求権と同じく原則5年、当分の間3年の消滅時効です。
 
 付加金とは、以下の賃金・手当についての支払義務違反(未払い)があったときに、労働者の請求により裁判所が使用者にその未払額と同一額の支払を命ずることができるものです。

  ・解雇予告手当
  ・使用者の責に帰すべき事由による休業手当
  ・時間外・休日及び深夜の割増賃金
  ・年次有給休暇取得時の賃金
   

記録の保存期間

 賃金台帳や労働者名簿など以下に列挙する記録の保存義務は、従来から3年でしたが、これらについても「原則5年、当分の間3年」とされました。

【労働基準法第109条で保存について定めるもの】
 〇 労働者名簿
 ● 賃金台帳
 〇 雇入れに関する書類
    例:雇入決定関係書類、契約書、労働条件通知書、履歴書、身元引受書等
 〇 解雇に関する書類
    例:解雇決定関係書類、解雇予告除外認定関係書類、予告手当または退職手当の領収書等
 〇 災害補償に関する書類
    例:診断書、補償の支払、領収関係書類等
 ● 賃金に関する書類
    例:賃金決定関係書類、昇給・減給関係書類等
 ● その他労働関係に関する重要な書類
    例:出勤簿、タイムカード等の記録、労使協定の協定書、各種許認可書、
      始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類
      (使用者自ら始業・終業時間を記録したもの、残業命令書及びその報告書並びに労働者が自ら
       労働時間を記録した報告書)、
      退職関係書類、休職・出向関係書類、事業内貯蓄金関係書類等


【労働基準法施行規則などで定めるもの】
 〇 時間外・休日労働協定における健康福祉確保措置の実施状況に関する記録(労基則第17 条第2項)
 ● 専門業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則第24条の2の2第3項第2号)
  企画業務型裁量労働制に係る労働時間の状況等に関する記録(労基則第24条の2の3第3項第2号)
  企画業務型裁量労働制等に係る労使委員会の議事録(労基則第24 条の2の4第2項)
  年次有給休暇管理簿(労基則第24 条の7)
  高度プロフェッショナル制度に係る同意等に関する記録(労基則第34条の2第15 項第4号)
  高度プロフェッショナル制度に係る労使委員会の議事録(労基則第34条の2の3)
  労働時間等設定改善委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則第2条)
  労働時間等設定改善企業委員会の議事録(労働時間等設定改善法施行規則第4条)

記録の保存期間の起算日の明確化

 記録の保存期間の起算日について、その記録に係る賃金の支払期日がその記録の完結の日等より遅い場合には、当該支払期日が起算日となることが明確化されています。対象となるのは、上記の記録のうち黒丸●を付したものです。(労働基準法施行規則56条2項及び3項)

  

今回の措置の見直しについて

 「原則5年、当分の間3年」の措置の見直しについては、施行日(2020年4月1日)から5年経過後の状況を考慮して検討を行い、必要があると認められるときには措置を講じることとしています。

   

【この投稿の執筆者】
  
 札幌・新道東コンサルオフィス代表
    特定社会保険労務士 塚田 秀和

代表 塚田秀和