働き方改革の成果として期待されるものに「労働生産性の向上」があります。
その労働生産性(付加価値労働生産性)は、次の計算式で求められます。
「1人当たり労働生産性」 = 付加価値額 / 従業員数
「 時間当たり労働生産性」= 付加価値額 / 従業員数×労働時間数
(総労働時間数)
1人当たり労働生産性は、次のとおり分解することができます。
「労働生産性」 = 従業員1人あたり売上高 × 付加価値率
= (売上高/従業員数)×(付加価値額/売上高)
「労働生産性」 = 従業員1人当たり人件費 ÷労働分配率
= (人件費/従業員数)÷(人件費/付加価値額)
また、1人当たりの生産性の物差しとして活用されている「人時生産性」(にんじせいさんせい)は一般的には、
(粗利益高/総労働時間数)で算出されることが多いですが、粗利益高の代わりに売上高、営業利益、付加価値額を用いることもあります。
「付加価値額」の算出方法については、統一されたものはなく、次の2つが併存していますが、加算法が用いられることが多いです。
【加算法】
「粗付加価値額」=営業利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課+減価償却費
(営業利益の代わりに経常利益、当期純利益などを用いることがある。)
また、粗付加価値額の加算項目のうち減価償却費を除いた「純付加価値額」が用いられることもあります。
「純付加価値額」 = 営業利益+人件費+金融費用+賃借料+租税公課
財務省「法人企業統計」では純付加価値額であり、営業純益(営業利益-支払利息等)を用いて、支払利息等を別途加算しています。
【控除法】
「付加価値額」 = 売上高 - 外部購入費用(直接材料費、買入部品費、外注工賃、補助材料費)
(経済産業省「経済センサス」では、外部購入費用の代わりに費用総額(売上原価+販売及び一般管理費)を用いて、
給与総額、租税公課を別途加算している。)
労働生産性の現状は、多くの指摘のあるとおり、厳しい状況が続いていますが、国内、国外それぞれの切り口での分析を見てみます。
【2021年度版中小企業白書(中小企業庁)】
この年の白書では、「中小企業・小規模事業者の実態」と題して分析を行っていますが、2019年の従業員1人当たり付加価値額(純付加価値額)は、中小企業製造業が535万円、中小企業非製造業が534万円でそれぞれ大企業の4割程度です。
【労働生産性の国際比較2021(公益財団法人日本生産性本部)】
このレポートでは、OECD(経済協力開発機構)加盟38か国のデータを用いて比較を行っています。
〇 日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)
49.5ドル(購買力平価(PPP)換算5,086円)で、OECD加盟38カ国中23位
〇 日本の一人当たり労働生産性(就業者一人当たり付加価値)
78,655ドル(購買力平価(PPP)換算809万円)で、同28位
でいずれも主要先進7か国では大きく引き離されての最下位です。
また、一般的には優位にあると考えられがちな製造業の労働生産性は、ドイツ、韓国を下回る水準で18位。OECD主要加盟国中トップであったのは20年以上前の話です。
この先、生産性を指標として経営改善を進めていくのであれば、1人当たりではなく、時間当たりの指標を用いる方が良いと考えられます。それは、働き方改革、人的コストの増加などで労働時間の削減がこれまで以上に労働生産性改善の重要な要素となることと、同一労働同一賃金を実行し維持していくには、時間当たりでの労働生産性の把握が必要になってくることからです。