3 就業規則・人事評価制度について考える

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就業規則・社内諸規程

 就業規則の内容で、必ず書き込まなくてはいけないのは、労働時間、賃金、退職関係の3つだけで、あとは、その会社で制度として導入する場合に書き込むものが8つというのが、法律上の決まり事です。実務上は、懲戒に関することなど必須事項に近いものがいくつかあるものの、会社の裁量で動ける範囲は意外と広いです。
 わかりやすくするため、企業の就業規則へのスタンスで対極にあるものを2つ並べて考えてみます。
 実際には、多くの会社は2つのスタンスの中間のどこかに位置する形となります。
    

現在の労働法規に即した労働条件で雇用し、労務管理をしていると示すだけのものである

 この捉え方のもとでは、就業規則には法律での要件をクリアする以上のものは必要ないと割り切っていくことになります。そして、就業規則への支出は収益を生まない費用でしかなく、ゼロとしたいものです。
 対応としては、厚生労働本省サイトの作成ツールを活用したり、厚生労働省のモデル就業規則をカスタマイズするなどすれば、支出ゼロで法律に照らして問題のない就業規則を作ることは十分可能です。

 また、一部の社会保険労務士法人などが提供している低コストの作成サービスを利用するなどの方法もあります
   

直接収益には結びつかないが、社内の労務インフラである

 この捉え方のもとでは、就業規則には法律での要件をクリアする以上のもの、例えば、テレワーク、副業・兼業などへの目配りをていねいにしたり、プロとしての社員の責任や義務、営業秘密や競業避止などのリスクへの対応を盛り込むといったことが考えられます。
 対応としては、自社直営、専門家への全面的な依頼のいずれかで、費用面では、「ゼロ」か「100」かの傾向があると感じていますが、中小企業が作業面、費用面のいずれにおいても無理なくできる第3の方法として自社直営の作業と専門家活用の組み合わせがあると考えています。具体的には、最初に専門家にヒアリングや現行規則の診断をしてもらい、問題点と作成方針のレポートを購入する。そして、そのレポートに従い自社直営の作業を進めていくというイメージです。ただ、自社直営で完成してから専門家のチェックを受けるやり方は、大幅な修正で時間と費用が予想外にかかる可能性もありますのであまりお勧めできません。

     

人事評価制度・給与制度

 最近、人事評価制度への関心が高まっている大きな理由は、HOMEページにも書いたように日本版統一労働同一賃金への対応を迫られていることです。
 同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)に賃金制度の決まり方についての行政の考え方が次のように書かれています。

  今後、各事業主が職務の内容や職務に必要な能力等の内容の明確化及びその公正な評価を実施し、
  それに基づく待遇の体系を、労使の話合いにより、可能な限り速やかに、かつ、計画的に構築して
  いくことが望ましい。

 人事評価制度の導入と賃金制度の見直しなどの必要性が高いと考えられる場合について、4つのパターンとその問題点を挙げてみます。  

複数の労働形態(時間・日数)の社員が混在している

 この混在がこの先さらに進んでいくと考えられます。
 フルタイムの社員の長時間労働で業務を回していくやり方は、時間外・休日労働の上限規制ですでに量的な制限を受けています。2023年4月からは中小企業でも月 60時間超の時間外割増50%が適用されますので、コスト的な面からも長時間労働頼りの経営は難しくなります。
 長時間労働頼りができなくなった穴をどう埋めるか?
 複数のアプローチが考えられますが、新規雇用でも対応するとした場合、果たしてフルタイムで雇用できるかというシビアな問題があります。結果として、勤務日数が少ない、勤務時間が短い、時間外ができない方を雇用して戦力化せざるを得なくなる可能性が高くなります。

   

中途採用が多い社員構成である

 新たな中途採用者の初任給の設定がまずあります。
 中途採用者の初任給は、その時の人手不足の度合いや、これまでの業界でのキャリア、そのキャリアからの期待値などを考慮して決めることになりますが、過去からの中途採用者を並べてみると意外に凸凹があるのではないでしょうか。
 そして、その後の仕事や責任に対する評価、特に1年目のそれを経営者から見れば適正、中途採用者から見ればそれなりに納得できるものとして、給与をはじめとする待遇に関する不満やトラブルを避けていくかが大切になってきます。
   

事業承継が近づいているが、評価や賃金決定は経営者が自らの判断のみで行っている

 経営者のその時の考え方により振れ幅が大きいのは望ましい状態ではありません。評価項目、評価基準やウエイトのかけ方などを明文化してみても、そこに説明できる一貫したものがない場合は、これまでの評価をそのまま続けることが会社経営にとってのリスク要因となります。。
 これとは別に、将来的に困難な状況に陥る可能性があるのが、社長一人でやっていて社員も納得している。けれども、その基準ややり方が見える化されていない(ここでいうと明文化されていないといった意味)場合です。
 そのままでは後継者に人事評価や賃金決定の業務を引き継ぐのが困難な作業になりますし、現在の評価への従業員の納得度が現社長の存在自体に大なり小なり依存している状態をどうしていくのかという問題があります。
    

会社や組織の合併をしたり事業譲渡を受けたとき

 これは、これから増えていくパターンです。
 事業承継の方法として第三者承継が注目される中で、ネットでのマッチングによるスモールM&Aが伸びてきています。コロナ禍前からその傾向はありましたが、コロナ禍の中でもその伸びは衰えることがありませんでした。
 すそ野が広がって、小規模の会社での実績が多くなると、労務管理の問題がこれから出てくると考えられます。スモールM&Aでの第三者承継では、現在の経営者が承継後も数年間会社に残るケースが結構多いようですから、その猶予期間の間に体制を整えて労務管理をうまく引き継いでいくことが大切です。
    

 これらの問題点への対応策として、人事評価制度を導入する際にクリアしておきたいのは、
  〇 仕事の内容やそれに必要な能力レベル(もしくは求められる行動)が見える化されていること
  〇 仕事ベースの明確な基準に沿って偏りのない評価がなされ、賃金をはじめとする待遇に反映されること
  〇 その評価基準は業績や能力の向上を適正に評価できるものであること

の3つです。加えて、人材育成にもつながる仕組みにできればいうところはありますが、それは次の課題です。

 この3つをクリアすると、仕事ベースで評価されますから、フルタイムでも短時間でも時給で見れば説明できない差が生じることはなくなり、フルタイムと短時間の雇用区分間での転換での人材活用や、短時間での新規雇用がしやすくなります。
 また、中途採用社員の初任給についても、その職務で標準的な評価を受けたと仮定しての給与額に期待値のプレミアムを乗せるなど、根拠が明確な設定がしやすくなります。
 事業承継がらみの問題についても、それまで現社長の頭の中で完結していた人事評価と給与決定の仕組みが見える化され、事業を承継する者に人事評価を引き継ぐためのハードルが大きく下がります。他企業との合併やグループ化の場合でも新体制への移行の際のトラブルの回避につながります。